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自由に向かって6

「僕はそんなの嫌だよ。そんなの、嫌っ……」 亜樹だって負けじと睨んで。でもその瞳はまた少しずつ潤み始める。 「僕の中にはいつも颯太がいるの。颯太がいなきゃ、もう生きていけない。それくらい、颯太が好き。ねぇ、一緒にいようよ」 「駄目だ、亜樹。そんなことできない」 亜樹が俺の胸に縋り付いて懸命に見上げる。俺は目を逸らす。 それができたらどんなにいいか。俺だって亜樹のいない人生なんてまっぴらごめんだ。だけど感情に従っていたら、どうにもならない。 亜樹が、傷つけられる。 「嫌だ。僕は一緒にいたい。何があっても、一緒にいたいの」 「駄目だって」 「なら僕と一緒に来てくれるまで出ていかない」 「じゃあ無理やり帰ってもらう」 「いや。颯太、ねぇ、一緒に来て……」 「無理なんだよ、亜樹」 どうして引かないのか。自分に危害が加わることくらい理解しているはずなのに。 強情な亜樹にも、間接的にしか亜樹を守ってやれない自分にも、こんな運命にも、九条にも、苛々する。 いっそ本当に部屋についた呼び鈴を鳴らして、警備に来てもらうか。 一緒の未来などないのに、これ以上押し問答を繰り返しても、お互い辛いだけだ。 「……颯太は、嫌じゃないの」 俺が悩んでいると亜樹がポツリと呟く。 「颯太は、僕と一緒じゃなくて、辛くないの?」 変わらず俺を見上げ、その瞳が光る。その顔は不安に揺れていて、カチンとくる。 「辛くないわけ、ないだろっ……」 「なら、どうして駄目なの」 「そんなの亜樹だってわかってるでしょ。亜樹が、傷つくんだ。俺じゃない。亜樹が」 「僕は構わない。僕はそれでもいい」 「何、言って……」 少し強めに言うと逆に更に強く返される。もう瞳に不安はない。もしかしたら図られたのだろうか。 今の亜樹ならそれもおかしくない。 亜樹は俺の手を取ってぎゅっと握る。

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