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自由に向かって7
「僕は颯太と一緒なら、何でも耐えられるよ。好きな人といれば、何も怖くないから」
そう言って亜樹がへにゃりと笑う。
目の端から一筋、雫が垂れた。
「僕はどうなったっていい、とは言えない。そうすると颯太が辛く思うから。でも、それは僕も同じ。僕だって颯太が辛いのは、嫌だよ」
「亜樹……」
「僕も颯太を守りたい。守られてばかりは嫌なんだ」
亜樹の笑顔が、声が、体温が、俺を撫でる。流されそうになる。亜樹の方が正しいと、思わされそうで。
亜樹が俺の手を持ち上げて、頬にあてる。
「僕を守るなら、こうして触れられる距離で守って欲しい。そしたら僕も颯太を守れる」
手には頬からの熱が伝わってきて。
「お互いのためってこういうことなんじゃないかな……。これが愛し合うって、ことじゃないかな」
伏せられていたまつ毛が上を向いて。
「何があっても二人一緒なら乗り越えられるよ」
またその瞳から涙が零れて。
「颯太」
手は頬から離され、亜樹はまた俺を見上げ。
「一緒の未来を、生きよう?」
「亜樹っ……」
耐えられなくなってその体を抱きしめる。
ああ、こんなことだったんだ。こんな簡単なことだったんだ。二人が幸せになれる道は、ちゃんとあったんだ。
鼻の奥がツンとする。この感覚、いつぶりだろう。
最後に泣いたのは白い部屋に閉じ込められた時。だからもう十年以上も前だ。
涙を見られたくなくて更に亜樹を引き寄せる。かなりきつく抱きしめても亜樹は抵抗せず、俺を抱きしめ返してくれる。
そしてその手がゆっくり背をさする。いつも俺がやっていたように。
「……俺、成績が一回下がったくらいで逃げ出すような弱いやつだよ……」
「弱いところがなきゃ困るよ。完璧な人間なんてこの世にいないもん」
「これまで何度も亜樹を傷つけて、これから先も傷つけるかもしれないよ……」
「傷つくたびに強くなれる。今回のことがあって、気づいたんだ」
「亜樹……」
小さな体に手を回し、消えないように抱きしめる。現実だと感じていたい。
「僕は颯太の強いところも、優しいところも、弱いところも、全部好き。颯太が僕の全てを認めてくれたように、僕も颯太の全てを包み込んであげる……」
「……っ、好きだよ……亜樹……」
「うん、僕も……大好き」
亜樹の言葉が心に染みる。やっと対等に、なれたのかもしれない。
お互いを支え合う。そこに辿り着いて初めて、本当の意味で近づけたのかもしれない。
俺は亜樹を抱きしめながら、しばらくの間泣き続けた。
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