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自由に向かって10

早朝に漫画喫茶を出た。寝足りない気持ちはお互いある。二人で伸びをして、顔を見合わせる。 「さて、どっちに行く? 北? 南?」 「んー、南がいいかな……海が綺麗な方」 「よし。決定」 今は夏だから海が真っ先に思い浮かんだ。太陽に照らされて綺麗に光る青い海。海など行けるとは思わないけど、一応の理由にはなる。 僕の言葉に颯太は微笑んで頷いた。 こうして僕らの行き先のない旅が始まった。 まず始発の新幹線に乗る。颯太は僕を窓側に押し込めた。 不謹慎だが旅行みたいでわくわくする自分もいた。隣には大好きな人がいる。だからそう思うのだろう。 二人とも寝不足だからと何も言わず背もたれを倒した。窓の外を気にせず、目を閉じるとすぐに眠くなってきて………… うとうとしつつ新幹線に揺られる。少し目を開けた拍子に、遠方の青く白い何かが見えた。 「あっ、颯太! 富士山だよ」 ハッとしてすぐに飛び起きる。 初めて見た。興奮して颯太を揺り起こす。 「んー……あ、ほんとだ。綺麗だね」 「うん!」 ぼーっとした目で颯太は富士山を眺める。 何回か瞳をしばたいた。 「人里離れた山なら見つからなかったりして」 そしてぽつりと呟いた。 人里離れた山。確かにそこなら二人だけの世界になりそう。 「アルプス山脈とか行ってみたいな」 「スイスの?」 「そう」 素直に願望を言ってみると、颯太は可笑しそうに笑った。そして僕以上に夢物語な発言をする。 「海外行っちゃう?」 「パスポート持ってないよ」 「無賃乗船とか」 「だめだよ〜」 くだらない会話をして声を上げて笑う。 とにかく今この瞬間を楽しもうと思った。 この先何が起きても、いいように。

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