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自由に向かって11

結局は寝ないまま乗り続けて、僕と颯太は関西の地に降り立った。 がやがやと人が埋めるホームを抜け、駅構内に出る。少し人の少ないスペースまで颯太が僕を連れて行った。 「お昼食べちゃおう。何がいい?」 「颯太は?」 「そうだなぁ……俺こっちのうどん食べてみたいって思ってた」 「僕も」 そういうわけでうどん屋へ向かうことにした。とりあえず駅を出て、人通りの多い方へ行く。 どこもかしこも人だらけだ。都会はどこも変わらない。 はぐれないように颯太に頑張ってついていった。颯太は僕に合わせてゆっくり歩いてくれた。 「あっ……ごめんなさい」 しかしそっちに気を取られて誰かとぶつかってしまう。慌てて謝るも、ぶつかった人は既にいない。 「どうしたの?」 「誰かにぶつかって……」 「亜樹は大丈夫?」 「平気」 「気をつけてね」 「うん」 それからはちゃんと周囲に気を配りつつ歩いた。 そして手頃なうどん屋を見つけ、中に入る。僕も颯太もたぬきうどんを頼み、それを持って向かい合う席に座った。 二人で視線を合わせて同時にいただきますと言う。 なんだかやたらと目を合わせたり、微笑み合っている気がする。くすぐったいけれど嬉しい。距離が縮まったなぁって実感できる。 一人はにかんでうどんを一口食べた。 「わぁ、優しい味……」 「うん。こっちもこっちで美味しいね」 「そうだね……あれ?」 ふと違和感に気づく。 急いでポケットに手を入れる。何もない。 財布がない。 「亜樹?」 「どうしよう、颯太。財布がない」 「まさか、ぶつかった時にスられたんじゃ……」 「そんな……」 ハッとなって今度はカバンを探る。 よかった。颯太の稼いだお金はある。 念のため颯太の財布とこっちとに分けて入れといたが、僕の財布にまで入れておかなくて正解だ。 「颯太の方はちゃんとあるよ」 「そっか。亜樹のは残念だけど……」 「うん。元からそんな入ってなかったから」 「わかった。……じゃあ、食べようか」 「そうだね」 気を取り直して食事を再開する。 これからはカバンを体の前にして歩こうと決意した。

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