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自由に向かって12
うどん屋を出たあとは電車に乗ったり、はたまた降りたりを繰り返し、途中からは夜行バスに切り替えた。
バスで寝ながら本州を出て、九州に辿り着いた。
明け方にバスを降りるともう既に暑い。すっかり夏だ。
そして今日は……颯太の両親が帰ってくる日。
「さて、亜樹。とりあえず歩こうか」
「わかった」
颯太は気づいているのかどうかわからない。でも表には出していないから、僕も何も言うまい。
「とうとう九州まで来ちゃったね」
「まさかこんなとこ来るとは思わなかったよ」
「僕も」
朝の静かな町を二人で歩いて行く。
これからどうするのだろう。とりあえず南にはやってきた。一か所にとどまるわけにもいかないし、転々とするのだろうな。
「あー亜樹、ごめん。トイレ寄っていい?」
「いいよ。外で待ってるね」
颯太が公園に小走りで入っていく。僕もあとを追って、颯太の入ったトイレの前で待つ。
公園は静かだった。
早朝だし人がいたらおかしいのかもしれない。
……そう思ったけど、一人いた。
ベンチにビールの缶を何本も転がし、自身はベンチに半分寝転んでいる。
目を合わせたらだめだ。
咄嗟に思ったがもう遅かった。目を逸らす前に、ばっちり合ってしまった。
そしてなんとそのおじさんは僕の方へ向かってきてしまった。
「おじさんといいことしようぜぇ」
そして真ん前に立っての第一声が、これ。
きっと昨晩から飲んでいたのだろう。ふらふらした足取りに、いまいち呂律の回っていない言葉。
むわっと嫌な臭いも鼻に付く。きっと酒の匂い。
「ごめんなさい。人を待っているんで」
「いいじゃあねぇかぁ……おじさん嫌なことあってなぁ、慰めて欲しいんだ」
「ちょっ……やめてください」
おじさんが僕の腕を掴む。酔っ払いのくせに力が強い。指が食い込む。
おじさんの生温かい体温にぞわぞわと肌が泡立ち、背筋に悪寒が走る。
気持ち悪い。こんな人に、触られるなんて。
「僕、男ですっ……」
「知るかぁ……いいから行くぞぉ」
「やめてっ……」
足を踏ん張るもずりずり前進してしまう。この人が向かっているのは茂み。
脳内には一瞬、この先に待つ自分の映像が流れる。
そんなの、嫌だ。
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