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自由に向かって13

「汚い手で触れるな」 「颯太!」 僕の動きが止まる。 いつにも増して鋭い声の颯太が、助けに来てくれた。おじさんの手首を掴んで僕の手から外す。 颯太はギリギリと手首を締めながら、おじさんを睨む。おじさんの口から短い悲鳴が聞こえた。 そしておじさんは見る見るうちにしおらしくなると、ふらふらした足取りで一生懸命逃げて行った。 「亜樹、大丈夫?」 「……うん」 颯太がハンカチを取り出して、触れられたところを丁寧に拭く。それから優しく抱きしめてくれた。 「亜樹は可愛いんだから気をつけなきゃ」 「かっ……可愛くなんてないよ」 「じゃあ今みたいに男から声かけられたの何回ある?」 「えっと……」 前に若い人に暗がりで捕まったことがあった。あとは今のおじさん。 たったの二回だ。 「ほら、悩むほどあるんだ」 「ちがっ……二回だけ」 「二回も、でしょ?」 否定して顔を上げると、颯太も僕を見る。少し眉が下がっている。 僕は颯太の腰に回す手に力を込める。 「でも好きなのは颯太だけ、だから……」 思い切って言ってみると颯太はきょとんとしたあと、ふっと笑う。 「そうやって許してもらおうとしてる?」 「違うよ、ほんとにっ……」 「わかってるよ。可愛いなぁ、もう」 颯太はちゅっと僕の鼻にキスをする。 少し物足りない。口に、欲しい。最近キスすらしてないから。 無意識に唇を尖らせてしまう。 「口にすると抑え効かないから」 「……っ」 すると颯太は妖しく微笑んでくる。 胸がきゅんっとして頬が熱くなる。後ろの孔も締まってしまったのがわかって、すごく、恥ずかしい。 「い、行こう!」 たまらなくなって僕は颯太の手を引いて歩き出した。

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