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自由に向かって19

心地よい体温の中で目を覚ます。何も身につけていないまま僕と颯太は抱き合っていた。 隙間から顔を出して窓を見ると、既に青空が広がっていた。さすがに昼ではないだろうけど、こんな遅くに起きたのは久しぶりだ。しかもぐっすり眠れたのも。 「んん……、亜樹?」 「あ、颯太。おはよう」 「おはよう。よく寝れたね」 「うん」 キスできちゃいそうなほどの至近距離でひっそり話す。 淑やかでゆったりとしたいい時間。 しばらくそのまま抱き合って、お互い何もしないでいた。互いの体温を感じて、それに身を委ねて。 それだけですごく満たされるから。 「……亜樹、話があるんだ」 でも颯太の真剣な声音でそれは崩れる。 覚悟はしていた。昨日は最後になるかもしれないって多少なりとも思っていた。 もう僕も、颯太も、わかっている。 潮時なんだって。最初から無謀だったって。 「……なに?」 「もうこの生活も、限界だと思う」 「うん」 ほら、やっぱり。 僕も颯太も考えていることがどんどん重なるようになってきた。それは良いも悪いも関係なく。 「前みたいにいつ盗みに遭うか、もしくは絡まれるかもわからない。できる限り亜樹を一人にしないよう気をつけてるけど、いつもとはいかないかもしれない」 「うん」 「お金だっていつまでもあるわけじゃない」 「……うん」 真剣な表情で颯太の気持ちが真っ直ぐ伝わってくる。目を逸らしてはいけないと、僕もじっと見つめ続けた。 でも。 もう一緒にいれないかもしれない。もうこんな時は過ごせないかもしれない。 そんな思いがぐるぐる回って、切なくなる。 「だから俺、向き合ってみようと思う。現実からも九条からも逃げずに」 「……う、ん」 颯太の決断は一緒の未来を掴もうとしている。それなのになんだか哀しくて、淋しくて。 「また泣く」 颯太は困ったように笑って僕の頭を撫でた。 「ごめんなさい……僕のせいで、颯太は……」 僕なんかと出会わなければこんな選択をしなくて済んだ。九条から追われるなんて選択、しなくてよかったんだ。こうして常に周りを気にして、足跡を残さないよう神経すり減らして…… 「亜樹、それは違う」 ぽろぽろ涙を零す僕の頬を颯太が諸手で挟む。そして無理やり視線を合わさせた。 「俺は亜樹と出会わなかったら、死ぬまで淋しい人生を送るとこだった。誰かを愛して、守りたいなんて思うことも、こんな温かい時間も、知ることはできなかった」 「颯太……」 「亜樹。あの時、落ちてきてくれて、ありがとう」 ポロリと、また涙が落ちる。 「……颯太こそ、あの時、僕の家の前を通ってくれて、ありがとう」 「ふふ、両想い」 颯太が嬉しそうに笑って僕を抱きしめてくれる。僕も夢中で抱きついて、しばらく泣き続けた。 そうして気の済んだあと、また同じ服を着て、荷物を持って。 二人で手を繋いで、ホテルを後にした。

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