187 / 961
自由に向かって19
心地よい体温の中で目を覚ます。何も身につけていないまま僕と颯太は抱き合っていた。
隙間から顔を出して窓を見ると、既に青空が広がっていた。さすがに昼ではないだろうけど、こんな遅くに起きたのは久しぶりだ。しかもぐっすり眠れたのも。
「んん……、亜樹?」
「あ、颯太。おはよう」
「おはよう。よく寝れたね」
「うん」
キスできちゃいそうなほどの至近距離でひっそり話す。
淑やかでゆったりとしたいい時間。
しばらくそのまま抱き合って、お互い何もしないでいた。互いの体温を感じて、それに身を委ねて。
それだけですごく満たされるから。
「……亜樹、話があるんだ」
でも颯太の真剣な声音でそれは崩れる。
覚悟はしていた。昨日は最後になるかもしれないって多少なりとも思っていた。
もう僕も、颯太も、わかっている。
潮時なんだって。最初から無謀だったって。
「……なに?」
「もうこの生活も、限界だと思う」
「うん」
ほら、やっぱり。
僕も颯太も考えていることがどんどん重なるようになってきた。それは良いも悪いも関係なく。
「前みたいにいつ盗みに遭うか、もしくは絡まれるかもわからない。できる限り亜樹を一人にしないよう気をつけてるけど、いつもとはいかないかもしれない」
「うん」
「お金だっていつまでもあるわけじゃない」
「……うん」
真剣な表情で颯太の気持ちが真っ直ぐ伝わってくる。目を逸らしてはいけないと、僕もじっと見つめ続けた。
でも。
もう一緒にいれないかもしれない。もうこんな時は過ごせないかもしれない。
そんな思いがぐるぐる回って、切なくなる。
「だから俺、向き合ってみようと思う。現実からも九条からも逃げずに」
「……う、ん」
颯太の決断は一緒の未来を掴もうとしている。それなのになんだか哀しくて、淋しくて。
「また泣く」
颯太は困ったように笑って僕の頭を撫でた。
「ごめんなさい……僕のせいで、颯太は……」
僕なんかと出会わなければこんな選択をしなくて済んだ。九条から追われるなんて選択、しなくてよかったんだ。こうして常に周りを気にして、足跡を残さないよう神経すり減らして……
「亜樹、それは違う」
ぽろぽろ涙を零す僕の頬を颯太が諸手で挟む。そして無理やり視線を合わさせた。
「俺は亜樹と出会わなかったら、死ぬまで淋しい人生を送るとこだった。誰かを愛して、守りたいなんて思うことも、こんな温かい時間も、知ることはできなかった」
「颯太……」
「亜樹。あの時、落ちてきてくれて、ありがとう」
ポロリと、また涙が落ちる。
「……颯太こそ、あの時、僕の家の前を通ってくれて、ありがとう」
「ふふ、両想い」
颯太が嬉しそうに笑って僕を抱きしめてくれる。僕も夢中で抱きついて、しばらく泣き続けた。
そうして気の済んだあと、また同じ服を着て、荷物を持って。
二人で手を繋いで、ホテルを後にした。
ともだちにシェアしよう!