188 / 961

一緒の未来1

帰るだけだからと空港に向かうことにした。 「何にもないね」 周りを見渡しても空港どころか駅すらない。主に古い様式の二階建ての家屋や田んぼ、だだっ広い空き地が周りに広がる。 車通りの全くない道路の端を二人で歩く。 「まず駅見つけようか。そこで色々聞いてみよう」 「そうだね」 スマホがないから最寄りの駅や空港がどこにあるかわからない。 ならどうやってラブホテルを見つけたんだとなるけど、それはどうやら適当に歩いた結果らしい。とりあえず人目につかない方へと。 これは帰るのに長くなりそうだ。 でも青い空に白い雲、ジリジリ照りつける太陽など、明るいものに包まれていると、気分は良かった。希望へ向かって歩いているって気がする。 そうして二人並んで歩いていると、バババッて大きな音が空から聞こえ始める。少しずつ近づいてくると、ヘリコプターの音だとわかった。 田舎だとすごく大きく聞こえる。耳が痛いから、早く通り過ぎてほしい。 そう思ったがヘリコプターの音はいつまでも消えなかった。寧ろ、近づいているような………… 颯太も気づいたようで二人同時に空を見る。するとそのヘリコプターはまっすぐ僕らの方へ向かってきていた。 「とうとう見つかったか」 「えっ……! 九条……!?」 まさかヘリコプターで来るなんて。九条ってすごい。 そうじゃなくて、どうしよう。とうとう見つかってしまったということだ。 いや、好都合じゃないだろうか。どうせ帰って説得する気だったんだし、わざわざ逃げる必要もない。 「亜樹、走るよ」 「えっ?」 だけど颯太はなぜか僕の手を掴む。そして走り出した。 しかも僕の足の速さを気にしないなものだ。颯太の全速力で走らされる。僕は足をもつれさせないように気をつけた。 違う。そんな余裕はない。もうただただ必死で足を動かした。 後ろからはヘリコプターの音が聞こえる。僕らはただ逃げる。 足をひたすら前に。前に。前に。 ……どうしてだろう。すごく、自由だ。 家とか学校とか、僕を縛るものは何もなくて。今だけはただ自由。何も気にする必要なんてない。走りたいから、走る。 それがすごく自由に感じる。 清々しい。気持ちいい。 ああ、幸せ。 「颯太、幸せだ」 「奇遇だね。俺も」 颯太は一瞬振り返って笑った。 うん。なんだかすごく幸せなんだ。 まるで風みたい。僕らは風のように自由に、好きなところへ、吹いていく。 このままどこまでも、行けちゃいそうだ。 ヘリコプターの音をBGMに、颯太の頼もしい背中を見つめながら、逃げ続ける。

ともだちにシェアしよう!