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一緒の未来1
帰るだけだからと空港に向かうことにした。
「何にもないね」
周りを見渡しても空港どころか駅すらない。主に古い様式の二階建ての家屋や田んぼ、だだっ広い空き地が周りに広がる。
車通りの全くない道路の端を二人で歩く。
「まず駅見つけようか。そこで色々聞いてみよう」
「そうだね」
スマホがないから最寄りの駅や空港がどこにあるかわからない。
ならどうやってラブホテルを見つけたんだとなるけど、それはどうやら適当に歩いた結果らしい。とりあえず人目につかない方へと。
これは帰るのに長くなりそうだ。
でも青い空に白い雲、ジリジリ照りつける太陽など、明るいものに包まれていると、気分は良かった。希望へ向かって歩いているって気がする。
そうして二人並んで歩いていると、バババッて大きな音が空から聞こえ始める。少しずつ近づいてくると、ヘリコプターの音だとわかった。
田舎だとすごく大きく聞こえる。耳が痛いから、早く通り過ぎてほしい。
そう思ったがヘリコプターの音はいつまでも消えなかった。寧ろ、近づいているような…………
颯太も気づいたようで二人同時に空を見る。するとそのヘリコプターはまっすぐ僕らの方へ向かってきていた。
「とうとう見つかったか」
「えっ……! 九条……!?」
まさかヘリコプターで来るなんて。九条ってすごい。
そうじゃなくて、どうしよう。とうとう見つかってしまったということだ。
いや、好都合じゃないだろうか。どうせ帰って説得する気だったんだし、わざわざ逃げる必要もない。
「亜樹、走るよ」
「えっ?」
だけど颯太はなぜか僕の手を掴む。そして走り出した。
しかも僕の足の速さを気にしないなものだ。颯太の全速力で走らされる。僕は足をもつれさせないように気をつけた。
違う。そんな余裕はない。もうただただ必死で足を動かした。
後ろからはヘリコプターの音が聞こえる。僕らはただ逃げる。
足をひたすら前に。前に。前に。
……どうしてだろう。すごく、自由だ。
家とか学校とか、僕を縛るものは何もなくて。今だけはただ自由。何も気にする必要なんてない。走りたいから、走る。
それがすごく自由に感じる。
清々しい。気持ちいい。
ああ、幸せ。
「颯太、幸せだ」
「奇遇だね。俺も」
颯太は一瞬振り返って笑った。
うん。なんだかすごく幸せなんだ。
まるで風みたい。僕らは風のように自由に、好きなところへ、吹いていく。
このままどこまでも、行けちゃいそうだ。
ヘリコプターの音をBGMに、颯太の頼もしい背中を見つめながら、逃げ続ける。
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