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一緒の未来2

そのうち後ろからヘリコプター以外の機械音も聞こえてくる。つまりは車だ。 ちらりと振り返ると三台追いかけてきている。 これは逃げ切れない。そもそも逃げ切るつもりもないのだと思う。 颯太は大人しく足を止めた。 「どうせ逃げたんだから一回も二回も変わらないよ」 いたずらっぽく笑う颯太に思わず笑みをこぼす。 最後の最後で極上の自由を味わおうとした、ってとこだろうか。確かにすごく素敵なひと時だった。 二人で息を整えている間に、三台の車に周りを取り囲まれた。 車の中から数人の黒服の男性が出てきて、腕を背中側で拘束された。そしてそのまま隣の空き地まで連れていかれる。 ヘリコプターはその空き地へと着陸した。土埃が舞っている。 プロペラの回転が徐々に遅くなり、完全に止まると、機体のドアが開いた。 まず男性が降りてくる。その後ろから女性が出てきて、斜め後ろに控える。 「まさか直々に来るとはね……」 「え?」 「父さん。あの人、自分の手は煩わさないんだ。自分は仕事部屋から動かず、相手に必ず出向かせる」 ということは男性がお父さん。九条俊憲、ということになる。なら後ろはお母さんか。 確かに自分でヘリコプターに乗ってまで来るのはけっこうな苦労だ。着陸許可も取らなければならないだろうし……。 だけどわざわざ赴いた。颯太を、連れ戻すために。颯太の、ためだけに。 「……」 予想が確信へと向かっていく。 颯太のお父さんが、颯太にばかり固執する理由。 ずっと考えていた。ずっと疑問だった。 だが小さな欠片を集めて、少しずつ形になってきていた。 颯太と並んで拘束されながら、僕は颯太のお父さんを見つめる。 颯太のお父さんは颯太を見た。見るからに厳格そうで冷たい眼。 「よくもここまで逃げたものだな」 「そうですね。でもちょうど帰ろうと思っていました。父さんに話したいことがあるんです」 「ほう。言ってみろ」 彼は顎を少し上げ、目を細める。鋭く颯太を睨むが、颯太は全く動じない。 「俺に亜樹と一緒に生きる権利をください」 そして颯太は、言い切った。 凛々しい瞳。出会った頃より力強かった。 そんな瞳でまっすぐ父親を見つめ、自分の望みを告げた颯太。 もう何かから逃げている颯太ではない。物凄くかっこよかった。

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