190 / 961

一緒の未来3

「何を言うかと思えば。それを認められたらどうする? また逃げるのか?」 唇の端を片方上げて、馬鹿にするように颯太のお父さんは笑った。 「説得力がないのはわかります。でも、俺はもう逃げません。守りたい人と一緒なら、どこまでも強くあれるとわかったんです。だからもう、逃げたりしない」 颯太は目を逸らさない。じっとお父さんを見つめて、認めてもらえるのを待っている。 颯太のお父さんも颯太を睨みつけていた。 時間にしては一分も経っていないのだと思う。だが僕にはそれ以上に長く感じられた。 もどかしい。これは颯太と父親の対話。だから僕はただ見守ることしかできない。 颯太のお父さんは値踏みするように颯太を眺め、それから小さく鼻を鳴らす。 「くだらない。連れていけ」 黒服の男性たちが頷き、颯太だけを引っ張っていく。 脳がショックに染まるより早く、口と体は動いていた。 「颯太!」 「亜樹!」 僕も颯太も体を捩り、黒服の腕を抜け出そうとする。だが外れない。強く掴まれて、自由は効かない。 颯太が、離れていく。 綺麗な茶髪。スッと通った鼻筋。榛色の澄んだ瞳。 それらがどんどん遠くなって。 視線が絡んで、絶望が広がる。 「父さん! お願いします! 亜樹と! 亜樹と一緒じゃなきゃ、だめなんです!」 「さっさと連れていけ」 「父さん!」 颯太が髪を振り乱して叫ぶ。けれどお父さんは颯太を一瞥もしなかった。黒服に命令するだけ。 また颯太は僕を見る。 その瞳にはかつてないほどの絶望が広がっていた。僕と同じ色。 「そうっ……た!」 思い切り力を込めて、腕を引く。すると腕が自由になった。 足を前に運び、腕を伸ばす。 「あき……!」 颯太の目が見開かれて、颯太も腕を引く。黒服が驚いたような顔をした途端、颯太の腕も解放された。 僕も颯太も、一歩踏み出す。腕が近づく。 僕の指先と、颯太の指先が、触れかけ。 一気に、引き戻される。 僕は黒服二人掛かりで取り押さえられ、颯太は一人の黒服に引きずられていく。 「颯太! 颯太!!」 「亜樹!」 だめだ。このままでは、また。 せっかく通じ合えたのに。一緒の未来を生きられると思ったのに。 嫌。離れ離れは嫌。もう一人は、嫌なんだ。 颯太のお父さんを見る。 この人を止める。止めなきゃ。そのために、この場を一瞬、沈めるために、一番有効な方法。方法は。 息を深く吸う。 「九条俊憲!!」 僕の絶叫が、空き地に響き渡った。

ともだちにシェアしよう!