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一緒の未来3
「何を言うかと思えば。それを認められたらどうする? また逃げるのか?」
唇の端を片方上げて、馬鹿にするように颯太のお父さんは笑った。
「説得力がないのはわかります。でも、俺はもう逃げません。守りたい人と一緒なら、どこまでも強くあれるとわかったんです。だからもう、逃げたりしない」
颯太は目を逸らさない。じっとお父さんを見つめて、認めてもらえるのを待っている。
颯太のお父さんも颯太を睨みつけていた。
時間にしては一分も経っていないのだと思う。だが僕にはそれ以上に長く感じられた。
もどかしい。これは颯太と父親の対話。だから僕はただ見守ることしかできない。
颯太のお父さんは値踏みするように颯太を眺め、それから小さく鼻を鳴らす。
「くだらない。連れていけ」
黒服の男性たちが頷き、颯太だけを引っ張っていく。
脳がショックに染まるより早く、口と体は動いていた。
「颯太!」
「亜樹!」
僕も颯太も体を捩り、黒服の腕を抜け出そうとする。だが外れない。強く掴まれて、自由は効かない。
颯太が、離れていく。
綺麗な茶髪。スッと通った鼻筋。榛色の澄んだ瞳。
それらがどんどん遠くなって。
視線が絡んで、絶望が広がる。
「父さん! お願いします! 亜樹と! 亜樹と一緒じゃなきゃ、だめなんです!」
「さっさと連れていけ」
「父さん!」
颯太が髪を振り乱して叫ぶ。けれどお父さんは颯太を一瞥もしなかった。黒服に命令するだけ。
また颯太は僕を見る。
その瞳にはかつてないほどの絶望が広がっていた。僕と同じ色。
「そうっ……た!」
思い切り力を込めて、腕を引く。すると腕が自由になった。
足を前に運び、腕を伸ばす。
「あき……!」
颯太の目が見開かれて、颯太も腕を引く。黒服が驚いたような顔をした途端、颯太の腕も解放された。
僕も颯太も、一歩踏み出す。腕が近づく。
僕の指先と、颯太の指先が、触れかけ。
一気に、引き戻される。
僕は黒服二人掛かりで取り押さえられ、颯太は一人の黒服に引きずられていく。
「颯太! 颯太!!」
「亜樹!」
だめだ。このままでは、また。
せっかく通じ合えたのに。一緒の未来を生きられると思ったのに。
嫌。離れ離れは嫌。もう一人は、嫌なんだ。
颯太のお父さんを見る。
この人を止める。止めなきゃ。そのために、この場を一瞬、沈めるために、一番有効な方法。方法は。
息を深く吸う。
「九条俊憲!!」
僕の絶叫が、空き地に響き渡った。
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