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一緒の未来5
颯太も黒服も息を詰め、やり取りを見つめている。拘束する力は少し緩んでいた。
「じゃあどうして!」
僕は拘束から抜け出して一歩踏み出した。
即座に黒服たちが反応して、再び体を押さえられる。
黒服たちの下へ向けた圧力に抵抗し、颯太のお父さんに鋭い眼光を注ぎ続ける。
「どうして柊先輩ではだめなんですか! 十分素質がある人なのに……寧ろ一度逃げ出した颯太より、相応しいと言えるのでは、ないんですか」
「…………」
「お願いです。颯太の願いを聞き入れて上げてください。僕と颯太が一緒にいることを、認めてください」
視線はぶつかって、膠着して。
だが颯太のお父さんはその視線を外してしまった。
「くだらない」
顎をくいっと上げると、その場が動き始める。
颯太はまた連れて行かれそうになる。僕は颯太とお父さんを交互に見ることしかできない。
僕の声は届かなかった。ならもうどうすることもできない。
「父さん! 亜樹の問いに答えないということは、それが正しいってことではないんですか!」
すると颯太が足を踏ん張りながら叫ぶ。
颯太も必死だった。一欠片残った希望に、懸命にしがみついている。
「そうではないと言っておろう」
「じゃあ亜樹と一緒にっ……」
「恋にかまけている時間はないはずだが」
「でもっ……」
「そんなに言うなら!」
颯太のお父さんの怒声が耳をつんざく。瞳は怒りに満ちていて、それが動揺を肯定していた。
「一緒にいさせてやろうじゃないか。ただし渡来亜樹は一生、白の部屋から出られんがな」
「そんな……」
颯太が唇を噛む。
『白の部屋』が何かは僕にわからない。でも颯太の言葉が止まったと言うことは、もう打つ手はないということで。
僕と颯太は見つめ合う。
もう届かない。止まらない。離れていくだけ。
ぼやっと目の前が霞んで、瞬きをするとクリアになる。このところ本当に涙もろい。
すぐ泣いてしまう僕に、また颯太は困ったように笑った。
そしてその口が、
"亜樹、大好きだよ"
と動く。
「……颯太!」
嫌だ。こんな終わり方、嫌だ!
でも何もできなくて、また何もできなくて。僕は涙を零すことしか、できない。
離れていく颯太。もうだめだって目を瞑る。
「もうやめましょう」
その時、凛とした声が空き地に落ちる。
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