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一緒の未来6

どこから声が聞こえてきたのか。わからなくてその場を見渡す。 すると颯太のお父さんの後ろに控えていた女性がその隣に並ぶ。つまり颯太のお母さんということだ。 颯太を見ると声を出したのが信じられないというようにお母さんを見つめていた。 「颯太は九条に戻ると言っています。それでよいではないですか」 お父さんも颯太同様に驚いたようでお母さんのことを見つめる。 引き結ばれた口が少し開いている。 「最近苦しいんです。あなたを見ていることが」 お母さんが胸元に手を持っていって、きゅっと握る。まつ毛を伏せたその顔は綺麗だった。 颯太の整った顔はお母さんに似たのかもしれない。 「私は九条のために清廉に生きるあなたを見ているのが好きでした。でも颯太が逃げ出した頃からあなたはおかしくなってしまった。颯太にばかり固執して……周りが見えなくなっているよう」 「いや、わたしは……」 「ええ。一度は柊くんを迎え入れ、それで進もうとしました。けれど結局、颯太を取り戻すことへ傾いてしまった」 颯太のお母さんが顔を上げ、お父さんの顔を見つめる。胸から手を離し、彼の腕をそっと掴んだ。 「もう自分を苦しめるのはやめてください。いいじゃないですか。自分を認めても。九条俊憲ではなく、颯太の父ということを、優先しても」 「明恵……」 見つめ合うその姿は、まるで一枚の絵のようだった。対になることが必然の二人が見つめ合う、儚くも美しい光景。 時が止まったまま、その場の全員が一組の夫婦を固唾を呑んで見守る。 その間もじりじりと太陽は照りつけ、一筋の汗が僕の頬を伝った。 すると颯太のお母さんが微笑む。小さく頷いてから後ろに下がり、また陰に戻った。 お父さんが颯太へと向き直る。 「颯太。兄の家に住むことを認めよう」 「じゃあっ……」 光芒が差し込む。颯太を見ると、僕を見てはいなかったが、口に笑みが溢れかけていた。 「ただし」 彼が目を閉じながら僕の方へ顔を向け、そっと瞼を持ち上げる。その瞳は先のが嘘に思えるほど柔らかかった。 これが父親の九条俊憲なのだろう。 優しげな男性と視線を合わせ、僕は微笑む。それを見てその顔は颯太に戻った。 「たまには帰ってこい」 「父さん……!」 「自由を経験したトップというのも、九条に利点をもたらすだろう」 一瞬笑みを見せ、颯太のお父さんは身を翻した。それにお母さんも続く。 「……ありがとう、ございます!」 颯太が深く頭を下げる。僕も頭を下げた。 感謝してもし足りない。颯太のお母さんにも、お父さんにも。 よかった。本当によかったとしか言えない。 ヘリコプターのプロペラ音が空き地に轟き、その場から飛び立つ。その音が遠くなってから、やっと僕らは顔を上げた。 同時にお互いを見て、止まり、 次の瞬間には抱き合った。

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