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一緒の未来7
二人で散々喜びを分かち合った。
僕は大泣きしてしまったし、颯太の瞳も潤んでいた。お互いを離すまいときつく抱き合い、ずっと一緒だ、これからは離れなくていいと、散々言い合った気がする。
人生で最も幸せな時だった。
そのあと黒服の男性たちが車で空港まで送ってくれた。九条の家に一番近い空港に降り立ち、外へ出るとまた黒服の男性たちが迎えてくれた。
またもや車に揺られ、九条の家へと戻ってくる。豪華な玄関は苦い思い出を起こさせる。
九条夫妻は既に玄関前で待っていた。車から降りてその前に行く。
「兄の家まで送っていくか?」
「いえ、大丈夫です」
お父さんの後ろにお母さん。やっぱりその構図は変わらない。でも二人ともどこか柔らかい表情だ。
颯太は僕の手を上から包み込む。
「父さん。俺は絶対に九条を、より良い企業にしてみせます」
「ああ。期待している」
親の前で堂々と手を繋ぐなんて、恥ずかしい。散々名前を呼びあったとはいえ、改めた場だと意識してしまうというものだ。
一人でドギマギしていると、僕の方へ視線が向く。
あれ、これは、僕の言葉も求められている、ということ……?
急だから何も用意してない。
「……僕は絶対、颯太を離しません。幸せにしてみせます」
ぐちゃぐちゃの頭の中でぽろりと浮かんだのはこれだった。
颯太とずっと一緒にいたい。やっと一緒の未来を許してもらえたから、もう離れたくない。それに今まで苦労してきた颯太を、絶対に幸せにしてあげたい。
自分では大真面目の言葉だったが、なぜか颯太に笑われる。颯太のお父さんもお母さんも思わず口元を緩めている。
「えっ……え?」
「ううん、なんでもないよ。じゃあもう行きます」
「ああ」
僕だけ状況が掴めないまま、颯太は礼をして、それにお父さんが答えて。
颯太が僕の手を引いて歩くから、僕も慌てて頭を下げてそれについていった。
長い前庭を歩いていく。
美しい花々が太陽に照らされて綺麗だった。
「プロポーズかと思った」
「え?」
「さっきの」
「あっ……なっ」
そう言われれば、そうだ。離さないとか幸せにするとか、結婚する時のそれだ。
だから、笑われたんだ。
カァ〜ッと頬の温度が上がっていく。
「俺も幸せにするね」
「うっ……うん」
「ふふ」
「ちょっ! 颯太!」
片手で頬をさする僕。
その顔を覗き込んで、颯太が口にキスしてくる。
僕は目を見開いて周りを見回した。まだ敷地内なのに。庭師の方とかいるかもしれないのに。
僕が怒っても颯太はどこ吹く風。楽しそうに笑っているだけだ。
……でも僕だって楽しい。こんな温かな時間をまた過ごせるなんて、嬉しい。
そのままふざけ合ったりしながら、僕と颯太は駅に行って、いつも使う駅で降り、それから慣れた道を歩んでいった。
そうして久しぶりの景色を見る。
黒と白の外観に一台の車。どこからどう見ても、久志さんの家。間宮家だ。
「久志さんいるかな」
「いるとは思うけど、寝てるんじゃない?」
「もうこんな時間なのに?」
颯太が玄関の鍵を開けドアを開ける。
流石に久志さんはいないだろう。きっとリビングだろうな。
そう思って中に入ると、
丸くなった目と目が合う。
髪の毛は結ばず、無精ひげが剃られていない。起きたばかりで洗面所に向かう、といった様子。
全く変わらない久志さん。
粗野に見えて優しくて、気遣いばかりして、温かい。お父さんがいたらこんな風かもって思わせてくれる人。
自然と顔が綻んだ。
「……ただいま」
僕がそう言うと、久志さんも笑った。
「おかえり」
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