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一緒の未来8
「いやぁしっかし、よかったな」
ソファに三人で座って、久しぶりの会話をする。久志さんはL字の短い方、僕と颯太は長い方に座っている。
一緒に逃げ回って、最終的に颯太とお父さんは和解したなど、ことのあらましを話すと、久志さんは嬉しそうにした。
「久志さん、そもそも俺たちが逃げたって気づいたの?」
「食べ物少しなくなってたから、なんとなくわかってたよ」
「へぇ、さすが」
「お前それ馬鹿にしてんだろ」
「いや、別に」
颯太と久志さんの言い合いがまた聞けている。
颯太はきっと九条に戻るとしたらここには住めないって思っていたと思う。久志さんだって戻ってくることはないって考えていただろう。
だから二人ともいつもより嬉しそうに見える。
本当によかった。
「てか九州まで行くとはすげぇな。いっそのこと海外まで行っちまえばよかったのに」
「パスポートないって」
「それもそうか。それに海外行ってたらこんな結果になっていなかっただろうな」
「まあね。こうしてまたおっさんに再会するとは」
「愛すべきおっさんにな」
「は? 意味わかんない」
僕は口を挟まずに颯太と久志さんのやりとりを眺めていた。それだけで楽しい。
また戻ってきたことを実感できる。
すると久志さんの視線が不意に僕に向いて、そのまま止まる。それに気づいた颯太が僕を見る。
そしてまた困ったように笑った。
「泣き虫になった?」
「……へ?」
くしゃくしゃって頭を撫でられる。
不思議に思って目元に触れると僕は泣いていた。確かにそこは濡れている。
「なんでだろ……嬉しいからかな」
「……うん。俺も嬉しいよ」
颯太に出会ってから本当によく泣くようになった。感情の起伏が激しくなったのかもしれない。人生十六年間、無表情ばかりだったのに。
颯太は僕の肩に手を回す。僕の頭はこてんと颯太の肩に乗った。
「相変わらず可愛いねぇ、亜樹ちゃん。このまま泊まっていけば?」
「……ん。泊まります」
「え? 亜樹?」
鼻をすすって目元を拭う。
久志さんはまた可愛いって言う。でも泊まりの提案は嬉しい。
母さんが心配しているだろうから今すぐ帰りたいが、この時間ではまだ仕事中だ。なら明日の朝早くに行ったほうがいい。
そう考えての返事だったけれど、颯太が驚いて僕を見てくる。
「どうしたの?」
「泊まるって言ったから」
「だめ……?」
「だめでしょ、俺がいるのに」
「え?」
颯太の言っていることが理解できない。颯太がいるから、泊まるんじゃないの?
お互い疑問符を頭に浮かべて見つめ合う。
するとぶはって久志さんが吹き出した。
「颯太、阿保だなぁ」
「は?」
「亜樹ちゃんは別におれの部屋に泊まるなんて思ってねーよ」
「え! 違うよ、颯太の部屋で寝るよ?」
そうか。前に僕が久志さんの部屋に泊まったことあるから、勘違いしちゃったんだ。
いやいや、颯太がいる前で久志さんのところに泊まるわけないのに。
「あ、そうなの? 前は久志さんのところだったから勘違いしちゃったよ。はー……よかった」
「僕は颯太と一緒がいいもん」
「そうだよね。俺がいいよね」
「うん」
「ぐっ! 亜樹ちゃんの天然パンチ……」
何はともあれ平穏な日常がやっと取り戻せそうでよかった。
その日は初めて颯太の部屋に泊まって、二人一つのベッドで寝た。久しぶりに安心しきって眠れたと思う。
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