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一緒の未来9
「亜樹……大丈夫?」
「う、うん……」
隣の颯太に強張った表情で返事をする。
目の前には見慣れたアパートの玄関。103号室。僕の家。
一週間以上留守にしたのだから母さんは心配しているだろう。普段顔を合わせないとはいえ、いないことは気づいているはずだ。
……だとしたら、大目玉、かもしれない。
怒られた記憶は殆どないから未知すぎて逆に怖い。
一回深呼吸をして、ドアを開ける。
「……あれ」
誰も、出てこない。
颯太と顔を見合わせて首を傾げる。
ドアの開いた音は聞こえているはずだから、てっきり飛んでくるかと思ったのだけど。
靴はあるからいることは間違いない。
今の時間は七時。仕事に行くのだから起きていることだって間違いない。
とりあえず靴を脱いで家に入る。颯太にもついてきてもらって、ダイニングに入った。
「亜樹! やっと帰ってきた!」
「た、ただいま」
母さんは仕事の準備をしていたようだ。僕の帰宅に驚いてはいるようだけど、そっちを優先したらしい。
鞄に色々と詰めている最中だ。
「もう。旅行に行くなら先に言ってよ。結局スマホ忘れていくんだから」
「……え?」
「亜樹の友達が教えてくれなかったら、私ずっと心配することになってたわよ」
「友達……って?」
「清水蓮くんって子よ」
「清水くんが……?」
颯太を振り返る。僕同様に驚いた顔をしていた。
どうして清水くんはそんな嘘をついたのだろう。母さんが心配したら何か困ったことが起こるとでも思ったのだろうか。
清水くんの姿を思い浮かべ、今までした会話を掘り出していく。
……そうか、捜索願い。
清水くんはきっとそれを危惧したんだ。いつ、どうするかは話してあった。だから僕と颯太の逃走を察して、少しでも時間を稼ごうとしてくれた。
清水くんは本当に優しい。見ていないところでも、こんなに協力してくれるなんて。
「ん? 後ろの子はどなた?」
その時ようやく母さんが顔を上げて颯太に気づいた。
颯太は僕の隣に並ぶ。
「初めまして。間宮颯太って言います」
「初めまして。亜樹の母です。最近は亜樹のお友達によく会えるわね」
「違うよ。母さん」
「違うって?」
心臓が早鐘を打つ。
友人すらいなかった一人息子が初めて連れてきた恋人。それが、男。
母さんはそれをどう思うだろう。同性同士の話などしたことがないから、母さんがこういうことをどう思うかわからない。
でも颯太をただの友人だと言うつもりはない。言いたくない。
僕の返答を待つ母さんを見る。
やけに真剣な僕に母さんは不思議がっているようだ。
「颯太は友達じゃなくて……僕の恋人だよ」
「……恋人?」
「それに僕、旅行に行っていたわけじゃないんだ」
「……そうなの?」
「全て話したいから、一旦座ってもらってもいい? 出勤には間に合うように終わらせる」
「……え、ええ。わかった」
次から次へと情報を与えるから母さんは理解が追いついていないようだ。
眉をひそめつつ、ダイニングテーブルに腰掛けた。僕と颯太はその向かいに座る。
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