202 / 961
Starved heart 1
○ ● ○
『ただでさえ分家という立場があるのに、息子も本家に勝てないとは。久我の恥晒しとはお前のことだ』
『颯太さんは本当に素晴らしいこと。それに比べてうちときたら……本当に情けない』
『柊さま、また颯太さまより低い成績をとられたとか……。どうしてこんなにも違うのかしら』
『やはり颯太には遠く及ばない、か。失望したよ、柊』
僕の隣には生まれた頃から颯太という天才がいた。
家の者にはもちろん、両親にさえも疎まれる毎日。それが当たり前だった。
同い歳、決められた同じ学校。
比べやすい環境にいたことは、僕と颯太の違いを如実に表した。
どんなに努力しても追いつけない存在。
僕にとって颯太はそんな人間だった。
だが当人はいつもヘラヘラ笑って、特に努力もしていない。それなのにいい成績ばかり残して。僕はそんな颯太が憎かった。
ずっと、ずっと。
だがある日、颯太は九条を逃げ出して、僕が跡取りに据えられた。
それで颯太のことを少し理解できた気がした。
いつも笑みを浮かべていた理由も、何もせずに生きてきたわけではないことも。
亜樹への協力を決断した時、そのことももしかしたら理由に含まれていたかもしれない。
とにかく僕は亜樹に協力し、最終的には颯太が九条に戻り、全ては丸く収まった。
僕への当たりは当然、酷くなったが。
大きな栄光はいずれ失われる。それが一瞬だっただけのことだ。
だがそれではおさまらないのが自尊心ばかり高い人間。
僕自身も確かに颯太を連れ戻す話題が登った頃、苛ついたこともあったが、今ではもう何も思っていない。僕は割り切れてしまったのだ。
颯太への反感が消えたことも影響していよう。
ただ家の居心地は悪くなる一方で、意味もなく街に出ることが多くなった。
ともだちにシェアしよう!