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Starved heart 5
「いい加減喋ったらどうだ」
「僕に構うな」
「何言ってんだ。そんな弱々しい見た目で。夜中に出歩くなっつってんだろ」
男性はめんどくさそうにぼやき、溜め息を吐く。それならさっさと行けばいいものを。こいつはこの街の防衛でもしてるというのか。こんな見た目で。
阿保らしい。
「お前怪我してんのか?」
「してない」
「してんだろ。嘘つくな、餓鬼」
僕の顔を覗き込んで、また眉をひそめる。そして僕の腕を強く掴んだ。
どこかへ引っ張られていく。
「どこへ行く」
「おれんちだよ」
「……所詮同じ考えか」
見た目と行動のギャップに絆されたのか、何なのか。だが結局、根底は同じということだ。
心臓のあたりから冷たいものが広がっていく。
夜歩いているやつっていうのはどいつもこいつもセックスのことしか考えていない。
「馬鹿にすんなよ。考え方も餓鬼か、お前」
しかし男性は僕の言葉に舌打ちをした。
意味わからない。だが抵抗する気もない。
僕はそのまま男性のされるがままについていった。
「……ボロいな」
「あ? 文句あっかよ」
「いや。声が漏れてもいいのなら」
「てめぇ、ほんと生意気だな」
男性の住むアパートは古い見た目だった。しかもアパート一つで久我の家の大きさに負けている。久我や九条の家ばかり見てきた僕にはかなり小さく思えた。
男性は僕の腕を引いて階段を上っていく。一段一段抜けないか心配なほど軋んだ。
そして登りきると角部屋に向かい、鍵を開ける。
中に入るとやはり狭かった。1Kというのか、小さなキッチンの先に引き戸が一枚。キッチンにはゴミ袋や皿などが散乱していて、男の部屋だという感じがした。
「部屋入ってろ」
背中を乱暴に押される。
ガラガラと引き戸を開けながら部屋に入る。ベッドは起きたままになっており、床にも服がそのままだ。
座る場所は四角いテーブルの前か、ベッドくらいだ。じゃあベッドがちょうどいい。
布団を少し整えてから座る。
少し待つと男性は濡れタオルと救急箱を持ってやってきた。どうやら治療する気らしい。
ヤる気しかないのだと思っていたから少し驚く。
「未成年に発情するほど飢えてねぇからな。ほら口見せろ」
ベッドの前に膝立ちになる男性に顔を差し出す。
濡れタオルが近づいてきて血が拭き取られる。男性はそれを床に置くと、今度は救急箱からガーゼと消毒液を取り出した。
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