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Starved heart 7
男性の願い虚しく、僕と男性は毎日会うことになった。
それは僕が連日外に出て、その度に声をかけられたからだ。暗がりに連れ込まれることもあれば、ホテルに向かうこともあった。
しかし毎回、襲われる前に男性が助けに来る。
それを分かった上で僕は男たちを誘うわけだが。嫌がらせの気持ちが殆ど。それから家にいると妙にあの掌の感触が思い出されたから、とでも言えようか。
初めて出会った日から数えて五日目の夜。とうとう男性はキレた。
なかなか持った方だと思う。ここ数日僕を誘ってきた男どもとは大違いだ。
目の前には顔に縦筋を浮かべた男性。
「ほんとお前、何のつもりだ。毎日、毎日」
「そっちこそ毎回助けに来て何のつもりだ」
「質問に質問で返すな」
いつものシャッターに寄りかかりながら、男性の睨みを涼しい顔でかわす。
「別に金が欲しいとか掘られたいとかそういうわけじゃねぇんだろ」
「何故そう思う」
「ただの勘」
やけに偉そうな男性に鼻で笑う。するとまたデコピンされた。変わらず指の力が強い。
「強いて言うならお前が助けにくるからだな」
「はあ?」
打たれた額を指先で撫でながら、視線だけを男性に向ける。
「てめぇ嫌がらせかよ」
返事をしない僕にやはり男性は溜め息を吐く。金髪を手でがりがり掻くと、耳のリングピアスが小さく揺れた。
僕は初めて気づいたようにスマホを拾う。今日誘われた時、無理やり腕を引かれて落としたのだ。
「お前さ、おれんち来りゃいいよ」
「……は?」
「意味もなく夜出歩いてんなら、代わりにおれんち来い」
「……ふん」
何か言い返そうとしたが素っ気ないものしか出てこなかった。
馬鹿なのか。こいつは、馬鹿なのか。
わざわざよく知らない人間のために家を開けるとか。
希望が見えずただ彷徨っているだけの無機質な人間など、放っておけばいいのだ。
「まあ今日は遅いから帰れ」
「まだ日付は変わっていないだろう」
「それでも十分遅いっつーの。気をつけて帰れよ」
お前はそれしか言えないのか。そして頭を叩くのが好きなのか。
心の中で悪態をつくほど、行動が同じだ。
そして男性は身を翻す。
「村本誠也」
「なに?」
「おれの名前な」
愛想もなく呟かれたその名前。僕に聞こえたのがわかると、振り返りもせず帰っていった。
意味わからない、ほんと。
家来いとか、そのくせ何もする気はないとか、こいつに何の利点がある。面倒みが良すぎるだけなのか。
理論の成り立たない頭の中に、村本誠也という名前だけは、何故かはっきりと残った。
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