210 / 961
Starved heart 9
「開けんじゃねぇって言ったろ」
「別に僕は汚い部屋でも構わないが」
「うっせーな。一応客人だろ」
「そんなことを考える脳みそがあったのか。それを片付けに使ったらどうだ」
「掃除苦手なんだよ」
とりあえずゴミ袋を手に取る。
「おい、それどこにっ……」
「元の場所に戻す」
隙間があった引き戸に肩を入れて開け、前にゴミ袋が置いたあった場所に置く。
そして顔をあげれば目に入るのは綺麗なシンク。
「おい、あんま余計な……」
もちろん無視して流しの下の棚を開ける。中は見るも無残な汚さだ。乱雑にしまいすぎている。
「少しは入れ方というのを考えろ」
まず食器と調理器具を分け、大きいものから順に並べていく。よく使いそうなものは極力前に出し、鍋類は重ねて場所を取らないようにする。
その作業をキッチンの戸棚全てで行った。
そして改めて部屋に行く。誠也は諦めたのかもう何も言わない。
開け放していたクローゼットの中身を一旦出していく。リモコンはその中から見つけた。
小物類はそれ用のケースなどあるはずもないので仕方なくそのまま仕舞い、乱れた服は畳んで棚にしまう。上着はハンガーを使って引っ掛けた。
かなりの量でたっぷり時間をかけてからクローゼットの戸を閉めた。
一息吐いてリモコンをテーブルに置く。
テレビ台の中もよく見れば荒れているのに気づいて、手早く直した。
そして何事もなかったかのように先ほどと同じ位置に座る。
「お前、名前は。聞いてなかったろ」
「……柊だ」
久我だろうと九条だろうと、苗字を名乗るのは虫唾が走る。
「柊、綺麗好きか」
「これくらい普通だ」
「片付けうまいんだな」
「だから普通だ」
呆然と呟く誠也は遅れて同じ位置に座った。
「サンキューな。また頼む」
「……ふん」
珍しく眉間にしわを寄せず、笑顔で話しかけてきた。笑うと一気に若く見える。
僕は思わず視線をそらした。
何気なく言われた"また"なんて言葉に過敏に反応する自分が憎らしかった。
このあとは時々喋ったりテレビを見たりして過ごした。そしてまたきっかり十二時前に家を追い出された。
ともだちにシェアしよう!