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Starved heart 12

もうすっかりお馴染みの道を歩き、誠也の家へ着く。相変わらず壊れたままのチャイムを無視して、ノックもせずに家に入った。 「おー柊、きたか」 「ああ」 誠也はベッドを背もたれに、もう殆ど寝転んでいる感じで、座っていた。 特に気にもせずその隣に座る。 誠也がだらしないのはいつものことだ。 「今日仕事頑張っちゃってよー、疲れたんだわ」 「そうか」 「おれの仕事なんだと思う?」 「さあ」 「こう見えてもサラリーマン」 「意外だな」 「金髪、ウィッグで隠して行ってんの」 「ご苦労なことだ」 耳の中で両親の言葉が聞こえる。 ろくでもないと言った。誠也のことを、ろくでもないと。 違う。こいつは適当だしだらしないだが、なんだかんだ優しくて、面倒みもいい人間だ。ろくでなしなんかではない。 なら何故言い返さなかった。自分に一番苛立つ。 自分を堕とすだけでなく、他人も貶めるとは、本当に僕は救いようのない人間だ。 「なぁ、なんか今日反応薄くね?」 「いつものことだろう」 「ご機嫌斜めかよ、餓鬼」 「ふん」 「こりゃ重症」 誠也は目を閉じたり開いたりを繰り返し、怠そうに僕に話しかける。 意図的にではないが、今の僕では会話に身は入らなかった。 それでも誠也は話しかけてきて、それに短く答えたり、または無言になったり、要はいつも通りに時間を過ごした。 そして十二時になる十分前に誠也が立ち上がる。 「よし、もう帰る時間だぞ」 そう言われたら普段は『そうか』と言って立ち上がる。しかし今日はどうしても帰る気が起こらない。 あの家。僕への嫌悪に塗れたあの、家。 あの家の人間と同じ空気を吸わなければならないと思うと、脚が動かない。 「おい、柊? 寝てんのか? なわけねーよな」 「……帰りたくない」 「ん? なんつった?」 「帰りたくない。泊めてくれ」 「はぁ? だめに決まってんだろ」 誠也は僕の腕を掴んで無理やり立たせようとする。指の力が強い。ほんと力加減のわからないやつ。 その手を振り払った。 「柊、いい加減にしろ」 「なんで泊まってはいけないんだ」 「そんなん未成年だからに決まってんだろ」 「はっ、バレたら自分が危ないって?」 ずっと疑問に思っていた。なぜ帰らせることに頑ななのか。 なんだ、聞けばあっさり返ってくるじゃないか。 所詮、自分の身が可愛いということだ。人間なんてこんなもんだ。誠也だからと期待なんて……していなかった。 「てめぇ、クソ餓鬼」 誠也はとうとうキレて、僕の前にしゃがむ。顎を掴まれ、上を向かされた。 「百歩譲って夜出歩くのは許してやる。だがな家には帰れ。親が心配するだろーが」 真剣な瞳。 こいつの顔をこんなまじまじ見たのは初めてかもしれない。綺麗で、芯があって、穢れていない。僕にはないもの。 家族を大事にして、信じる。それも僕にはないもの。 顎にかかる手を思い切り弾く。 「僕には帰る家などない! 心配する親だっていない!」

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