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Starved heart 13

「おい、柊……」 「教えてやろうか! 僕のこと! 僕の苗字はな久我って言うんだ。あの大企業九条の分家。僕はその一人息子だ」 狂ったようにカーペットの一点を見つめ、次々言葉を吐き捨てる。 わけがわからない。違う。もうどうでもいい。 こいつにどう思われようと構わない。どうせいつか離れるのだから。もう、どうでも。 「九条には僕と同い歳の息子がいて、そいつは天才だった。僕はいつもそいつに負けて、勝てることなんか一つもない。だから九条の人間はもちろん、久我の人間も、両親でさえも、僕を見ない。暇つぶしに貶す程度だ」 人にこんなまくしたてるのは初めてだ。自分のことを話すのだって、初めて。 こういう時は馬鹿みたいに口が止まらない。 「僕には生まれた時から居場所なんてなかった。帰るところなんて、ないんだ……!」 叫び終え、大きく息を吐き出す。 脳に酸素が回ってくると、自分の行動が本当に馬鹿らしく思えた。こいつに、自分のことを話して、幻滅されるのがオチだっていうのに。 頭は冷静だ。それなのに顔は上げられない。情けない。さっさと出て行って、それで終わりにすれば早いとわかっているくせに。 「お前さぁ、ほんと餓鬼」 呆れたような誠也の声。別に予想通りだ。 しかし次の瞬間起きたことは、すぐに理解ができなかった。 また顎を掴まれ、一瞬誠也の瞳が見えたと思ったら、すぐに見えなくなる。 唇には、何かが、触れて、いる。 すぐにその感触は消えて、また視界に収まる程度の大きさで誠也が見える。 馬鹿ではない。僕は決して馬鹿ではないから、今何が起きたかはわかる。唇同士を触れ合わせること、つまりキス。 しかも僕にとっては、初めての。 亜樹としたことは一回もなかったのだ。だから今のが初めて。こいつと、初めて。 頬が熱くなるのがわかって、隠したいと思った瞬間、今度は抱きしめられた。 「居場所なんてとっくにあんだろ。ここに」 「それは仮初めのものだ」 力強い腕が体に回る。見た目と同じ逞しい胸に体が埋まる。同じ男のはずなのに、こうも違うのか。 「じゃあおれがお前を好きだって言ったら?」 「……は?」 「離したくない。抱きしめたい。キスしたい。セックスしたい」 「…………は?」 「というかお前もおれのこと好きだろ?」 「は!?」 「さっきから"は"しか言ってねーぞ」 意味がわからない。誠也が僕を好きだ、ということも信じがたいが、本人が言うならそれは認めよう。 だがそこでなぜ僕も誠也を好きだということになる。ありえない。僕はこいつを好きなんかじゃない。 僕が毎日こいつのとこを訪れていたのは、この家の居心地が良かったからだ。 気を遣わなくてよくて、貶されることも無視されることもない。それがたまたまここだっただけで、相手は誰でもよくて、そもそもいつか離れるつもりで過ごしていて。 ……なんて言い訳をしている時点で、答えはわかりきっているじゃないか。 焦る胸の内にそう冷静な言葉が降ってきた。

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