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「でも会長が僕のことを好いてくれていたのも、ちゃんとわかっています。発端はそうでも、心から僕のこと」
亜樹の肩を掴んでいた手を外す。少し強く掴み過ぎていた。
すると亜樹はその手を取った。
「僕のこと好きになってくれて、それから前に頼みごと聞いてくれて、ありがとうございました」
亜樹の目が潤み、あっという間に涙が落ちた。
水晶のように透き通ったそれは、亜樹の白い肌を滑り落ちていく。素直に美しいと感ぜられた。
「なぜ亜樹が泣く。本当に優しいやつだ」
「……会長の代わりに泣いてるんです」
「言うようになったな。でも罪悪感は抱くなよ。亜樹には颯太がいるように、僕にだって、いるからな」
僕の言葉を聞いて亜樹の口が開いたままになる。徐々に口角が上がっていって、いつしか笑顔を見せていた。
「じゃあ、会長っ……」
「ああ。僕はもう一人じゃない」
僕の返答に亜樹はますます笑顔を深くした。
よかったと小さく言いながら僕の手を強く握って額に持っていく。
亜樹への恋心は過去のものだ。それでもこの様子は可愛いと思う。
こういうさりげない動作が男の気を引くんだろう。颯太は苦労しそうだ。
小さな笑みが漏れる。
「……亜樹、いつか出かけようか。亜樹と、颯太と、僕と……僕の大事な人と、四人で」
少し照れくさい。
それでも本当に出かけたいと思った。誠也にも二人を会わせたいと、思った。
亜樹は勢いよく顔を上げる。
「はい……!」
心底嬉しそうな顔で、亜樹はやはり笑った。
それから手早く涙を拭うとソファから立ち上がる。
「じゃあ僕、行きますね」
「ああ」
ぺこっとお辞儀した亜樹が生徒会室を出ていく。
その背はもう小さく見えなかった。
僕に怯え震えていた亜樹でも、颯太に遠慮ばかりしていた亜樹でもない。
立派な一人の男だ。
「こうして変わっていくのか……」
息を一つ吐き、僕も立ち上がった。
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