226 / 961

Newer image of the future 11

「ん……」 目を開ける。 体の気怠さと冷房の音と誠也の胸板と。 寝ていたのだろうか。いまいち記憶が鮮明でない。 視線をあげると誠也と目が合った。 「せい……や……」 「おお、柊。おはよう」 「……おは、よう……」 スッキリした顔の誠也が笑う。その笑顔はかっこよかった。胸がきゅってしまる。 誠也って綺麗というより、やっぱりかっこいいんだ。かっこいい顔を、している。金髪もピアスも黒目も、全て、かっこいい。 「柊、おれのこと好きか?」 好き。 そう口が動く前に、なんとか言葉が理解できた。それで一気に意識が覚醒する。 「……なに言ってる、馬鹿」 「あーあ、餓鬼に戻った」 「煩い」 危なかった。流されるところだった。 もし曖昧な意識のままだったら、絶対に好き以外のことも言ってしまっていた。それでこいつのからかいネタを増やすところだった。 「ヤってる最中は甘えてたくせによ」 「黙れ」 「くっそ生意気」 誠也を睨みつけてから体を反転させる。 その時に気づいたが、体は綺麗になっている。それに下着も履いていた。 きっと僕が意識を手放したあと、拭いてくれたのだろう。 誠也の腕が腰に回ってきた。 その感触を感じながら、窓の外へ目を向ける。 空は橙色に染まっていた。もう夕方、か。昼にここに来たのだから、けっこう時間が経ってしまったらしい。 「誠也、腹が減った」 「おれも」 昼も食べずに運動をすれば、当たり前に腹が空く。 だが僕と誠也の頭にはすぐに一つの事実が浮かんでくるわけで。 「少しは何か作れないのか。普段どうしてるんだ、食生活」 「うるせー。お前こそなんで作れねぇんだよ。練習しろよ」 「僕は勉学で忙しいからな」 「こっちは仕事で忙しいんだよ」 一回強めに言い始めれば、すぐにいつもの言い合いが始まる。 「金髪ピアスのくせに」 「黒髪ウィッグで行ってんだよ」 「ご苦労なことだな」 「金髪が好きなんだよ」 「似合ってないって言ったら?」 「似合ってるだろーが。お前の惚れた顔だ」 「どの口が言ってるんだか」 笑みを零して振り返る。 誠也の瞳に僕の顔が映るのが見えて、すぐに唇が重なった。 首を回して小鳥の戯れのようなキスをしばらく繰り返す。 「外、食いに行くか」 「ああ」 「もう少し経ってからな」 「ああ」 誠也の頼もしい腕も逞しい胸板も、温かい。幸せな、熱だ。 温かくて幸せな時間など、僕には一番遠いものだと思っていた。そんなもの手に入るはずがないと、思っていた。 でも今、ここにある。 あの日、襲われてよかった。毎夜、出歩いていて、よかった。 そっと目を閉じて、心地よさに身を委ねた。

ともだちにシェアしよう!