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「ん……」
目を開ける。
体の気怠さと冷房の音と誠也の胸板と。
寝ていたのだろうか。いまいち記憶が鮮明でない。
視線をあげると誠也と目が合った。
「せい……や……」
「おお、柊。おはよう」
「……おは、よう……」
スッキリした顔の誠也が笑う。その笑顔はかっこよかった。胸がきゅってしまる。
誠也って綺麗というより、やっぱりかっこいいんだ。かっこいい顔を、している。金髪もピアスも黒目も、全て、かっこいい。
「柊、おれのこと好きか?」
好き。
そう口が動く前に、なんとか言葉が理解できた。それで一気に意識が覚醒する。
「……なに言ってる、馬鹿」
「あーあ、餓鬼に戻った」
「煩い」
危なかった。流されるところだった。
もし曖昧な意識のままだったら、絶対に好き以外のことも言ってしまっていた。それでこいつのからかいネタを増やすところだった。
「ヤってる最中は甘えてたくせによ」
「黙れ」
「くっそ生意気」
誠也を睨みつけてから体を反転させる。
その時に気づいたが、体は綺麗になっている。それに下着も履いていた。
きっと僕が意識を手放したあと、拭いてくれたのだろう。
誠也の腕が腰に回ってきた。
その感触を感じながら、窓の外へ目を向ける。
空は橙色に染まっていた。もう夕方、か。昼にここに来たのだから、けっこう時間が経ってしまったらしい。
「誠也、腹が減った」
「おれも」
昼も食べずに運動をすれば、当たり前に腹が空く。
だが僕と誠也の頭にはすぐに一つの事実が浮かんでくるわけで。
「少しは何か作れないのか。普段どうしてるんだ、食生活」
「うるせー。お前こそなんで作れねぇんだよ。練習しろよ」
「僕は勉学で忙しいからな」
「こっちは仕事で忙しいんだよ」
一回強めに言い始めれば、すぐにいつもの言い合いが始まる。
「金髪ピアスのくせに」
「黒髪ウィッグで行ってんだよ」
「ご苦労なことだな」
「金髪が好きなんだよ」
「似合ってないって言ったら?」
「似合ってるだろーが。お前の惚れた顔だ」
「どの口が言ってるんだか」
笑みを零して振り返る。
誠也の瞳に僕の顔が映るのが見えて、すぐに唇が重なった。
首を回して小鳥の戯れのようなキスをしばらく繰り返す。
「外、食いに行くか」
「ああ」
「もう少し経ってからな」
「ああ」
誠也の頼もしい腕も逞しい胸板も、温かい。幸せな、熱だ。
温かくて幸せな時間など、僕には一番遠いものだと思っていた。そんなもの手に入るはずがないと、思っていた。
でも今、ここにある。
あの日、襲われてよかった。毎夜、出歩いていて、よかった。
そっと目を閉じて、心地よさに身を委ねた。
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