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夏の終わりに1

○ ● ○ 颯太とお父さんが和解して、会長に親しい人ができて、颯太と会長とお父さんの三人で食事をして。色々なことがあった。 そんな怒涛の夏休みも終盤に近づいた頃、僕と颯太はある計画を立てた。 「俺は四時ちょっと前に行くね」 「うん。じゃあ僕は四時ちょっと過ぎに」 そんな会話をして僕と颯太はそれぞれの目的地へと散った。 僕の目的地は颯太の家。チャイムを押すと、そりゃ当然久志さんが出てくる。 「おお、亜樹ちゃん」 「あの……颯太、いますか?」 「颯太? いねぇけど」 久志さんの返答にホッと一息。それから不安げに目の前の人をちらちら見上げる。 「……久志さんに、相談したいことが、あるんです」 「どうした、珍しいな。颯太に嫌なことでもされたか?」 「えっと……ここじゃ話しにくいので、カフェかなんか行っても、いいですか……?」 「んーおう」 久志さんは少し不思議そうな表情をしたが、誘いに乗ってくれた。そして久志さんを連れ立って、颯太と決めたカフェに向かった。 カランコロンッて澄んだベルの音と共にカフェに入る。 お好きな席にどうぞという言葉を聞いてから颯太の姿を探す。たしかできるだけ奥の方に座ると言っていた。 首を伸ばしつつ店の奥へ向かうと、本当に一番奥の席に座る颯太と目が合った。 その向かいにはとある人が座っている。 「あり? 颯太いるんじゃねぇか。あともう一人いんのか……?」 「そうなんです」 こちらからはその人の後頭部しか見えない。久志さんに曖昧に微笑んでそのまま颯太の席へと行った。 颯太は一旦席を立って、ある人の隣に座りなおす。僕は颯太が座ってた位置に久志さんを押し込んで、その隣に腰掛けた。 僕と颯太が通路側だから、二人は逃げられない。 「おい、颯太。どういうことだ」 「おい、亜樹ちゃん。どういうことだよ」 二人の言葉が見事に揃い、僕と颯太は同時に睨まれる。 そう、ある人とは颯太のお父さんだ。 髪の長さや髭の有無など違いはあるけれど、久志さんと颯太のお父さんの顔は、やっぱり似ている。 「騙すようなことしてすみません」 「でも亜樹と話をしたんです。俺と父さん、俺と柊、柊と父さん、亜樹と柊が和解した。なら、残るは一組だって」 久志さんも颯太のお父さんも何とも言えない顔をして、それからお互いをちらりと見合う。 ちょうど視線が合ってしまったので、すぐに互いが逸らした。

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