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夏の終わりに2
その様子を見て、少し焦る。
もしこれがただのお節介になってしまったら。本当にお互い憎み合っていて、今にも罵り合うとか、無視し合うとか、そんなことになったら。
前に座る颯太を見ると、優しく微笑みかけてくれた。すぐに安心する。
颯太が大丈夫と言うなら、大丈夫だ。
「ひとまず飲み物でも頼みましょうか」
颯太が言うと、久志さんとお父さんがメニューを取り出す。それぞれが決めたあと僕らに渡った。そんなにメニュー数が多いわけではないのですぐに決まる。
様子を伺って久志さんがベルを押す。
「ご注文をお伺い致します」
「ダージリンティーとブラックコーヒー」
まず最初に口を開いたのは颯太のお父さんだ。
しかも……二人分?
何故だろう。
そろりと隣を見てみると、久志さんも驚いた顔をしていた。
「あとアイスココアとアイスカフェラテを」
「かしこまりました」
それに気を取られているうちに颯太が僕の分まで頼んでしまう。
「颯太、今日は別の頼もうと思ってたの」
「いつもココアだよね?」
「なっ、で、でも今日はっ……」
「恥ずかしがらなくていいのに」
「は、恥ずかしがってないよ」
もちろん嘘だけど。
ココアってどこか子供っぽい響きを持っている気がする。
颯太と二人きりなら全然構わないけど、せっかく久志さんと颯太のお父さんの前なのだから、少しは大人っぽい飲み物を頼みたかった。
せめて紅茶系かコーヒー系を……。苦いのはそこまで得意でもないけれど。
むすっとして颯太を見ても、颯太は全然反省してない。
「覚えて、たのか……」
するとその一瞬の沈黙に、久志さんの言葉が落ちる。
いつもなら颯太に便乗してからかってくるはずの久志さんは、驚きに満ちた顔で颯太のお父さんを見ていた。
もちろん僕と颯太には関係ない言葉だ。颯太のお父さんを見る。
「自分で作らないくせにいい茶葉ばかり買ってきて、散々わたしに作らせただろう」
「ああ……そうだな。そうだった……」
颯太のお父さんは久志さんを見ないし、久志さんにはいつもの軽快な口調がない。
だけどその様子を見て、安心した。
久志さんがたくさん茶葉を買ってくるのは、これが理由だったんだ。たまたまなんかではなく、ちゃんと理由があった。
最後に会ったのは何十年も前だろうに、お互いのことをしっかり記憶しているんだ。なら、もう何も言う必要はないだろう。
久志さんと颯太のお父さんはそれきり何も喋らなかった。
「お待たせしました」
気まずくない沈黙を破ったのは店員さん。それぞれの前に飲み物が置かれる。
悔しい、悔しいけど、ココアはとても美味しそうだ。しかも上にソフトクリームが乗っているやつ。特に好きな種類だ。
一口含むと、ほわって甘い風味が広がる。
「んっ……美味しい」
「ほら、ココアにしてよかったでしょ?」
「それとこれとは別だもん」
僕と颯太が軽い言い合いをしている最中、隣の二人も飲み物を飲む。
二人とも少し雰囲気が緩んだ気がする。
でもなかなか話し出さない。話さずとも伝わる……というわけではないと思うけど。
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