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夏の終わりに3
颯太とちょこちょこ話しながら視線を時々送りっていうのを繰り返し、ちょうど僕らが飲み物を飲んで無言になった時だ。
やっと久志さんが口を開く。
「何年ぶりだ……? 俊憲と会うのは」
「少なくとも三十年は超えているな」
「もうそんなになるのか……」
久志さんが珍しく言い淀んでいる。こんなことがあるんだ。
何かを言いかけ、紅茶を飲み、颯太のお父さんを一瞬見て、また紅茶を飲む。
「その……悪かったな、色々と」
「……わたしも兄さんも、自身に合った道を歩んだ。それだけのことだ」
「そう、か……そうだな。俊憲は昔から真面目だったからな」
「兄さんこそ昔から適当な人間だった」
「違いねぇ」
視線こそ合わないものの、二人は笑顔で言葉を交わす。
自分のことではないのに、すごく嬉しかった。
向かいの颯太と目が合って、こっそり笑みを向けあった。
それからは僕と颯太が話すことに久志さんがちょっかいをかけてきて、颯太のお父さんが何か口を挟んだり、久志さんとお父さんが昔話をしたり、穏やかな雰囲気で会話をした。
そしてみんなの飲み物が空になったあたりで久志さんが言った。
「ちょうどいいし、おれのバーに移動するか? 定休日だけど開けてやんよ」
「悪いが今日は会食があってな、また今度にさせてもらう」
「おお、そうか」
「自分から行くよ。颯太と亜樹くんの監視がない時に」
颯太のお父さんが僕たちを睨む。
本気ではないはずなのに、颯太のお父さんの冷たい視線は心臓が凍りそうだ。僕と颯太は顔を見合わせて、苦笑いをした。
「もちろん颯太と亜樹ちゃんは来るよな?」
「あ……はい」
「亜樹、料理は不味くないから安心して」
「おいこら、颯太」
笑顔で威圧する久志さんに頷くと、颯太がこそっと教えてくれた。
それに久志さんが怒って、その場が笑いに包まれる。
ああ、こういう雰囲気って素敵だ。
「んじゃ、とりあえず出るか」
久志さんの一声で一斉に立ち上がる。
一番歳上ということで久志さんが全て奢ってくれた。
店を出ると、あたりは日が沈みかけている。夜が近づいてきていた。
「では父さん、また」
「ああ。兄さんも亜樹くんもまた」
「はい。さようなら」
「おう。またな」
颯太のお父さんが背を向けて九条の家へと向かって歩いていく。
「じゃあおれのバーへ行くぞ」
「楽しみです……」
「なになに亜樹ちゃん、おれの店楽しみ? なんなら颯太置いて……」
「亜樹、相手にしちゃだめだよ」
いつものノリで僕たち三人も歩き出した。
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