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夏の終わりに4
「相変わらずカウンターの内側似合わないね」
「うるせぇ。これでもそこそこ人気あるわ」
僕と颯太はカウンターに座り、久志さんはその内側。久志さんの服はそのままだけど、内外の違いだけで雰囲気が変わる気がする。
僕は似合っていると思うけどなぁ……。何よりここで飲めたら楽しそう。
バーなど入るのは初めてだ。静かで落ち着いた雰囲気。
暗めの照明に茶色で整えられた店内。テーブル席が三個、カウンターが八席。カウンターの内側にはお酒のボトルがずらっと並んでいた。シックな曲が小さめに流れている。
大人な雰囲気で、ドキドキする。
「ほい。とりあえず食え」
「わっ、ありがとうございます」
まずチーズの料理を久志さんが出してくれる。
そこそこ料理はやってきたけど、久志さんの料理は僕と異なって、店で出すためという感じ。おしゃれな見た目だ。
「美味しい……!」
「だろだろ」
「うん、変わらず美味しい」
「颯太は来たことあるの?」
「何回かね」
「まだまだ行くぞ」
久志さんは他のチーズ料理だったり、グリル料理、揚げ物など、ちょこちょこ作ってくれて、それを全部食べ終える頃には満腹になっていた。
しかもどれもとても美味しかった。
そして最後に僕と颯太にそれぞれ飲み物が出される。
「これ……酒?」
「ちげぇよ。未成年でもばっちり飲める」
「そう」
バーにもお酒以外の飲み物があるんだ。
颯太が飲むのを見て、僕も恐る恐る飲んでみる。今まで飲んだことのないような味だ。口当たりがよくて、甘くて、美味しい。
「おお、いい飲みっぷり」
久志さんにそう言われるくらいにはぐびぐび飲んだ。
なんという飲み物なのだろう。家でも飲めればいいのに。
そう思って質問しようとしたら、くらりと視界が回る。
それをきっかけに体の中が熱くなる。意識は朦朧としてくる。
あれ……? 今、何しようとしてたんだっけ……思い、出せない…………
隣を見てみると颯太がいた。僕の大好きな人。
「そうたぁ……」
「亜樹? どうしたの?」
「好きぃ……」
颯太に抱きついて思いを口に出してみる。だって颯太を見たら大好きとかかっこいいしか出てこない。
颯太は僕の言葉に返事してくれない。久志さんの方を向いてしまう。
「ちょっとおっさん、何飲ませた」
「今日のお礼だよ。亜樹ちゃんに飲みやすいよう強さとかは考えなかったかもなぁ〜」
「くっそ」
颯太の顔は険しくてちょっと怖い。
何かあったのかな……機嫌悪いのかな……。
颯太の顔が僕を向く。
「颯太……怒ってるの?」
「いや、怒ってないよ。大丈夫」
「よかったぁ……」
安心してもっと颯太にくっつく。ぎゅうって腕に力を込めると、颯太の感触がした。
「亜樹……ちょっと離れられる?」
「どうして……?」
「いや、その……動きづらい、かな?」
歯切れの悪い颯太の言葉。
もしかして抱きつくの迷惑だったのかな? 嫌がられてる? じゃあ……嫌われちゃう?
途端うるうると瞳に涙が生まれる。
「あー亜樹、ごめん、泣かないで!」
「だって颯太……」
「わかった、うん、わかった。帰ろう」
「いっしょ……?」
「うん。一緒」
「じゃあ帰る……」
颯太はもう怒ってないみたい。それよりも焦ってる?
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