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夏の終わりに5

颯太が立ち上がった。僕に手を差し出してくれるから、遠慮なく掴んだ。引っ張って立たせてくれる。 「じゃあ俺たち帰るから」 「おう、楽しめよ〜」 「煩い、ふざけんな」 久志さんはいつも通り笑って、楽しそう。でも一緒には帰らない、みたい。 「久志さん、ばいばい」 「おう、亜樹ちゃん。またな」 ふにゃっと笑って久志さんに手を振る。久志さんも手を振り返してくれて、嬉しい。 それから颯太の手に引かれてふらふら久志さんのお店を出た。 空にはキラキラって星と月が輝いてる。颯太と出会った時みたい。綺麗だなぁ。 「亜樹、真っ直ぐ歩けそう?」 「んー大丈夫だよぉ」 颯太と手を繋いでいるから、すごく幸せ。だからちゃんと歩けるんだ。 そう考えて颯太を見ると、颯太は考えるそぶりを見せた。 「亜樹、おいで」 「颯太?」 僕の手をパッて離すと颯太はその場にしゃがんだ。僕に背を見せて、腕を背中側で広げる。 「おんぶしてあげる」 「おんぶ?」 「ほら、おいで」 「うん!」 颯太におんぶしてもらうなんて初めてだ! 僕は夢中で颯太に抱きついた。颯太の腕が足に回り、ぐんって持ち上がる。僕は慌てて颯太の首に手を回した。 温かいなぁ。 それに、それに、おんぶなんて初めて。 抱っこならたぶん母さんに何回かやってもらったことあると思うけど。 「おんぶなんて初めてだよ」 「そう、なんだ……」 思ったことをそのまま言ってみると、颯太の返事は少し素っ気ない……? 「おんぶでも抱っこでも俺でよければいつでもやるよ。他にも俺にできることなら、なんでも」 「ほんとに?」 「もちろん」 颯太は優しいな。いつも僕にとっても優しい。 颯太にできること、なんでもやってくれる。僕が颯太にしてほしいことはやっぱり。 「僕、ずっと颯太と一緒がいい」 「そんな簡単なことでいいの?」 「うん! それが一番幸せぇ……」 「それは俺も幸せだな」 「じゃあ完璧だね」 「うん、そうだね」 僕のお願いが颯太も願ったことなんて、最高だ。ずっと一緒。 それって一番幸せで、一番難しいことだから。よかった。 颯太の首筋に顔を擦り付ける。 「あとね、あとね」 「んー?」 「お姫様抱っこもまたしてね」 「お姫様抱っこ?」 「うん。前にしてくれた時、嬉しかったのぉ」 「降ろして〜って言ってなかった?」 「恥ずかしいからそう言っちゃうけどね、ほんとは嬉しかった。颯太、かっこいいなぁって、胸がきゅ〜ってなるの」 「……そっか。じゃあまたやってあげる」 「うん」 背中から伝わってくる颯太の熱と、程よい揺れを心地よく感じながら、僕と颯太は一緒に僕の家まで帰った。

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