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夏の終わりに6
○ ● ○
……さて、この可愛い生き物をどうしようか。
「そうたぁ……好き、大好きぃ」
「うん、俺も大好きだよ」
「うふふ〜両想い」
亜樹の家についてから、ずっとこんな感じだ。
ずっと機嫌が良くて、ニコニコ笑ってばかりいる。ますます酒が回ってきたのか、ふわふわした雰囲気は加速していく。
亜樹は俺に抱きついて、腰に脚を回している。だから身動きが取れない。目の前で恋人の笑顔を見ざるを得ないわけで。
はっきり言って刺激が強い。普段は恥ずかしがるくせに、今は惜しげも無く好き好き言ってくる。
可愛い。もちろんいつも可愛いけど、慣れないぶん今は物凄く可愛く見える。
「颯太は僕のこと好きぃ?」
「世界で一番好き」
「えへへ、じゃあキスしてぇ」
「うん。いいよ」
そっと唇を重ねる。
亜樹の唇は柔らかくて少し濡れていて。亜樹とのキスは心地いい。
「んっ……んぁ、ンッ」
舌を入れるとそれだけで亜樹はすぐいっぱいいっぱいになる。可愛い声を漏らして、賢明に俺についてこようとする。
それは酔っていても酔っていなくても変わらないみたいだ。本当に可愛い。
だけどあまり続けていると、危ない。
そう思って唇を離す。とろんとした目を亜樹は向けてくる。
「そうた……しゅき……」
「うん、俺も……」
もう満足してくれたようだ。また抱きついてきて、俺の首に顔を埋める。
このまま酒が抜けるのを待てばいいか。
「そうた……」
「ん?」
だけど亜樹が俺の腕の中でもじもじし始める。
「えっち……しよ?」
「亜樹、それは……」
一足遅かったようだ。どうやら亜樹はもうそういう気分になってしまったらしい。
「だめ?」
「うーんとね……」
「そうた、僕とえっち、いや……?」
「いや、そうじゃなくて……」
亜樹が俺の顔を覗き込んでくる。
嫌なわけないし、寧ろ進んでそうしたい。しかし今の亜樹はこんな状態で、きっと明日になったら忘れている。
それって少し切ない。それに亜樹が亜樹でない時にするのも後ろめたい。
「そうた……いやなの……やなんだ……」
亜樹の中で何を考えたのかわからない。でも亜樹の目は潤んで今にも泣きそうだ。
俺は亜樹の涙に弱い。悲しさで泣かせるのは避けたい。
といってもこの頃の亜樹は涙脆いから泣かせないのは難しいかもしれない。
幼い頃の反動ではないかと思う。涙を我慢するのに慣れきっていたのが、少しずつ直ってきたんだと。
だからといって目の前で泣かせるのは。
「亜樹、ごめん。違うよ。わかったから、えっちしよう」
「うん!」
亜樹の涙はすぐ引っ込んで笑顔で俺に腕を回した。
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