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夏の終わりに9

○ ● ○ 「んっ……」 カーテンから漏れる光で眼が覚める。 目を開けると僕の部屋にいることがわかって、僕は颯太に抱きしめられていることも分かった。しかもほぼ裸だ。 何も覚えていない。僕、どうしたんだっけ…… 颯太とえっちしたってこと、なのかな。じゃあなんで記憶はないんだろう。 久志さんと颯太のお父さんが仲直りして、久志さんのバーに行って、それから美味しい食べ物と飲み物をいただいた。 そこまでは覚えている。 飲み物のあとはぷっつり途絶えていて……もしかしてお酒だったのだろうか、あれが。 だから記憶がなくなって……? 「んー……亜樹……」 「あ、颯太。おはよう」 ならきっと颯太がここまで運んでくれたんだ。それで暑がってたから脱がせてくれたのかもしれない。 颯太はゆっくり目を開けて、これまたゆっくり僕を見る。 その瞳が僕を僕だと認識して、じとっと細められた。いじけているとか、そんな感じの表情。 どうしたんだろう。僕、何かしたかな。 「やっぱり覚えてない?」 「覚えてないって……僕何か……」 「俺の上で、俺にお尻向けながら、喘いでたよ」 「えっ……なっ!?」 な、何それ!? どうして僕そんなことしちゃったんだろう。お酒の力かな、そうだと願いたい。 そもそも自分からやったんだろうか、颯太の上でお尻を向けて…… 『ま、待って、そうた……これ恥ずかしい……』 「……!?」 『えっち……しよ?』 『そうたぁ……好き、大好きぃ』 『ひっ!? やらっ、らめっ……! あぁあっ』 「……っ!!」 断片的に何かの記憶が浮かんでくる。 何かって、ナニかだけど。信じたくない。いやでもこんなの想像とか夢なわけ、ないし。 「あれ? もしかして思い出した?」 「……す、少し……」 「凄かったね」 「うー……いじわる」 颯太はにやにや笑って、僕をからかってくる。 酷い。仕方ないじゃないか。お酒のせいだもん。久志さんが飲ませたんだもん。 「じゃあさ、これも思い出した?」 「……ひっ」 颯太の手がするりとお尻を撫でる。そうされるとなぜかすごく後ろが疼いた。 それから颯太はわざと時間をかけて僕に覆い被さる。 「自分だけ先にイッて、寝ちゃったの」 「し、知らないっ……」 「そっか、そこまでは思い出してないんだ」 口元は笑みの形。だけど眉は悲しそうに寄る。 怖い。怖いよ、颯太。 「ま、待って。そんな朝から……」 「一人で抜くの虚しかったな……」 「うっ……で、でも母さんがいるかも……」 「もう九時過ぎてるし、いたとしても関係ないかな」 「そ、颯太……」 「そんな可愛い顔してもだーめ」 颯太は嫌味なくらい綺麗な笑顔で僕に手を伸ばした。 「ひゃっ……あっ!」 そして僕は自分の体で颯太を慰めたのだった。

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