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逆巻く欲望3
「え? ぼ、僕……?」
急に持ち出されてびっくりしてしまう。
なんで僕? どうして僕?
教室に視線を戻し、また颯太に移し、また戻し。
「気持ち悪い男の中で一人だけ可愛い子が! 絶対売れる! 絶対人気出る!」
困惑の中で松村くんがそう続ける。
すると急に教室でおおお〜って声が上がる。なるほど、確かに、なんて声も上がっていてますます困惑する僕。
というか僕がメイド服を着る、ということ?
クラスは賛成決定の雰囲気に向かっている。だけどメイド服なんて……恥ずかしい。
「いいだろ!? みんな!!」
「おう!!」
「やろうぜ!」
「いいな!」
次々声が上がっていってしまう。
この空気を割って声を出せるほど僕は勇気を持っていない。
「おいおい、待てって、みんな」
その波を止めたのは清水くんだった。
「まずは本人の了承だろうよ。それと他の人の意見も聞けって……間宮とかさ」
みんなが僕と颯太の席に顔を向ける。興奮一色の表情だ。それから松村くんは自信満々といった顔で、清水くんは心配そうな顔。
ドキドキしてしまうけど、言っていいなら、言おう。言わなければならない。
「ほ、他の案……ない、かな……」
「亜樹にそんなことさせられない」
「な、なんと! 渡来! 間宮!」
クラスに落胆の声が広がり、松村くんは大げさに泣き崩れる。
清水くんだけはやれやれと言って、でも安心したように笑ってくれる。
「ほら、他の案考えるぞ」
パンパンッと清水くんが手を叩き、場の空気を一掃しようとする。
だけど松村くんはその場にくずおれたままだし、クラスの空気もどこか沈んでいる。清水くんも困った表情になる。
……申し訳ない。
これではみんな文化祭を楽しめなくなってしまうかもしれない。
「亜樹、いいんだよ。気に病まなくて」
すると颯太が僕の手に自分の手を乗せて、優しく握ってくれる。
でも僕が我慢すればみんな楽しくなる。それにメイド服を着るのは僕だけじゃないし。なら少しくらいって思う気持ちが湧いてくる。
「そ、颯太……あのね、僕、頑張るよ」
「亜樹、いいって、無理しなくて」
「でもそれでみんな楽しくできるでしょ? なら、頑張る……」
颯太は僕の言葉に考えるそぶりを見せた。
それから松村くんや清水くんの方へ顔を向ける。
「メイドカフェでもいいって、亜樹が」
「まじか!?」
「間宮! いいのか?」
「ただし条件がある。一つは調子乗ってメイド服を際どくしないこと。もう一つはあとで言う。それを認めるなら俺もいいよ」
「おう!! 何でもいい! 認めてくれるなら、何でもやってやるぜ!!」
松村くんが腕を上げて雄叫びをあげる。
クラスの雰囲気も一気に紅潮。
ホッと一息つくと、颯太と視線が絡んだ。
「何かあっても俺が守るから」
「うんっ……」
クラスのざわめきに紛れて颯太が言う。少しの不安がすぐに吹き飛んだ。
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