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逆巻く欲望4
「時間も時間だし、今日のところはあと人数配分くらいだなー」
松村くんはチョークを持ち、メイド六人、ウェイター六人、その他二十八人と黒板に書く。
「おい茂、ウェイターってのは?」
「メイドだけじゃなくウェイターもいた方が効率と女性受けいいんじゃねえか?」
「あーなるほど」
松村くんのおふざけモードはどうやら終わったらしい。
いかに計画をスムーズに進めていくか。そこに脳はもう移行したみたいだ。
「ウェイターは中学の頃学ランだったやつたくさんいるだろうから、下はそれ履いて、上は制服のワイシャツ。あとはベストと前掛けと蝶ネクタイとかでいいんじゃないか」
「その他ってのは?」
「それは裏方だけど忙しくなったら前に出ることも考えて前掛けだけでもって思ってる。ウェイターと区別するために色は別で」
松村くんは頭の回転が早いな。早いからこそふざける時も面白いのかもしれない。
松村くんの言葉からすると、メイドとウェイターで基本的に接客をするということだろうか。その他の人数が多すぎるような気もするけど、部活の方で出られない人が出てきた時には有効そうだ。
たけど疑問が一つ飛んでくる。
「なあ、メイド服とかってどうすんのー?」
「買えばいいんじゃね?」
「おいおい、茂! それは高いって!」
「ならお前作れんのかよ」
「無理だけど……」
またもやざわざわと教室が騒ぎ立つ。
僕も裁縫なんてできない。小中の家庭科の授業では別に苦手ではなかったけど、普通に記憶はなくなっている。
もしかして颯太ならって思ったけど、苦笑いしながら首を左右に振られた。
確かに颯太のお父さんは裁縫なんて男には必要ないって言いそうだ。
「あの……俺、できると思う、けど」
「蓮!?」
「え! 清水が!?」
松村くんの隣に立つ清水くんがおずおずと手を挙げる。
「弟と妹の面倒みてて必要な時あったから」
「おお! 蓮! 救世主だ!!」
「くっつくなって……」
大仰に清水くんの腰に抱きつく松村くん。清水くんは鬱陶しそうに押し返していた。
清水くんが裁縫できるなんて意外だ。それに弟と妹がいることも初めて知った。清水くんがお兄ちゃんって楽しそう。
「俺一人じゃ無理だから手伝いが欲しいな」
「おう。そりゃもちろん」
「渡来と間宮、頼めるか?」
「えっ」
「これなら変な服にならないか確認できるだろ。やり方は教えるし」
どうしよう。ちゃんとできるかな。
でも力仕事とか内装とかよりはいいかもしれない。その場合、僕はあまり役に立たないだろうから。
「僕は平気だよ」
「俺もそれでいいよ」
「おう。サンキュ」
「二人だけでいいのか……?」
「あーまあ、うん。その代わりメニューとか内装とか頼むな」
「わかった。必要なものあったら遠慮なく言えよ」
「おうよ」
松村くんと清水くんがコツンって拳を合わせる。仲間って感じでかっこいい。
そしてそのあとは誰がウェイターとメイドになるかや当日の料理は誰ができるか、準備の際の内装班、買い出し班、メニュー班の配分等を考えた。
ちなみにウェイターには颯太が立候補した。クラスのみんなも異論はなかった。
ウェイターというとオシャレなカフェの男性店員を頭に思い浮かべる。絶対似合うだろう。
文化祭がますます楽しみになった。
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