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逆巻く欲望5

文化祭の準備は学校側が時間を設けてくれたり、各々が朝や昼、放課後に率先して進めていったりした。 そして今日のロングの時間もその準備に当てている。 僕と颯太と清水くんはみんなの邪魔にならないようにと、空き教室に移動してやっていた。 クラスの人たちが持ち寄ったミシン三台でこなしていた。 「あーまたずれた」 「大丈夫? 颯太」 「初めてだから難しいや」 「いやいや、小中の授業でやったことあるだろ」 「いや〜どうかな」 「おい」 清水くんがメイド服やウェイター服の型紙を用意してくれて、それに沿って教えてもらいながら作っている。 僕は結構得意でスイスイいけるんだけど、颯太はどうにも苦手みたいだ。 曲線部分は特に四苦八苦している。 「でも意外だな。間宮って何でも完璧そうなのに」 「僕も今思ってた」 「だよな!」 「ちょっと二人とも、俺にだってできないことはあります」 三人の目が合って笑いあってしまう。 清水くんは僕と颯太が一緒になれるよう気を遣ってくれたのだろう。それにいつもお昼を食べているメンバーだから、気心知れている感じが心地いい。 「あ、じゃあ間宮は前掛けと蝶ネクタイやってくれないか。俺と渡来でメイド服作るから。そうすれば量と難度が釣り合うだろ」 「そうしてもらおうかな」 三人でまずは一番難しいメイド服を片付けてしまおうということになっていたけど、確かに分担した方が早そうだ。 颯太は作りかけのメイド服を僕に渡す。それから前掛け用の二種類の布を手に取った。 ウェイター用はもちろん黒で、裏方用は深い緑だ。裏方は蝶ネクタイとベストはしない。 「清水くん、すごいね。裁縫できるなんて」 「親が共働きでさ、弟と妹の服を繕うのは俺だったんだ。あいつらすぐ汚すんだよ」 清水くんは困ったような表情をしているけど、どこか嬉しそうに笑っていた。 きっと兄弟の仲もいいのだろうな。 「それに妹がもう少し小さかった時はお姫様の服が欲しいって言い出して。母親があんた作ってやりなよって俺に言ってさー」 「だから手慣れてるんだ」 「間宮とは時間のかけ方が違うのさ」 「酷いな」 清水くんと颯太はすっかり仲良しだ。清水くんも颯太も人柄がいいし、基本しっかり者だけど、程よくふざけて、気が合うのだろう。 僕だって清水くんとはだいぶ仲良くなれたと思う。 だけど颯太とはずっと前から仲良し、だし、恋人、だし。少し妬けてしまう時があるのは秘密。 気分を変えるように僕は清水くんに質問する。 「清水くん、弟と妹っていくつなの?」 「んーと、弟は十五歳で妹は十歳」 「じゃあ弟さんはもう高校生になるんだ」 「そうそう! この前……つっても、夏休み中なんだけど、志望校ここにしたって言ってきた」 「ここって、俺たちと同じ高校ってこと?」 「そう。なんでも気になる人ができたとか……」 清水くんが首をひねりながらそう言う。 清水くんの弟さんが同じ高校を目指していて、しかもその理由が気になる人。 僕も颯太も目を丸くした。 「もしかして恋……?」 「いやいや、まさか。たぶん尊敬できるようなかっこいい人ってことだと思う。あまり教えてくれないからわかんないけど」 「でも楽しみだね。同じ高校に通えるなんて」 「んー……そうかもな」 清水くんは照れ臭そうに笑った。 素直に認めないところがまた可愛らしいと思ってしまう。 「ほら、二人とも、手が止まってる。喋りながらできないなら、やめんぞ」 「はーい」 「はーい」 それを誤魔化すように僕と颯太の手元を指差した。僕と颯太は声を揃えて返事をする。 こっそり颯太と目を見合わせて微笑み合うと、清水くんに睨まれてしまった。

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