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逆巻く欲望6

「亜樹ちゃん、メイドやるんだって?」 その日の放課後、颯太の家で食事をしていると久志さんが聞いてきた。 「なんで知って……」 「颯太が教えてくれたのよ」 「言わないとうるさいから。それに俺が教えたのはメイドカフェまで」 「そう聞いちゃ亜樹ちゃんがメイドやるに決まってるって思うだろ」 今日は久志さんが作ってくれた食事を食べている。 放課後は颯太が僕の家に来たり、僕が颯太の家に行ったりする。その回数は結構多いと思う。 ついでに一緒に食事をするなんてこともよくある。泊まるのもわりとある。 店が休みだったり、開店に間に合いそうな場合、久志さんが食事に参加することもある。 それにこのところ颯太は久志さんと話す回数が増えたかなって思う。こうやって食事を取るのだってそうだ。 きっと離れて初めてありがたさが理解できたのだろう。僕だって、そうだから。 「あー見てぇなあ、亜樹ちゃんメイド。な、おれ文化祭行ってもいいだろ?」 「おっさん一人で? 虚しくない?」 「それもそうなんだよなぁ……」 「写真はどうですか?」 「おお、それだ亜樹ちゃん!」 「ちょっと亜樹」 颯太が顔をしかめて僕をつつく。 少しくらい僕はいいと思うけれど。いつも久志さんにはお世話になっているし、見せるだけなら。あげるのではなくて。 「えっちなやつでもいいからな、あーきちゃん」 「へっ……!?」 「おい、おっさん」 「ご、ごちそうさまでした!」 ボボッと顔に火がつく。 残り少なかった食事を一口で食べて席を立った。食器を持ってキッチンまで行く。 それを流しに置いて水を流し入れる。 透明な液体がさらさら流れていくのを眺めながら、頬を手で仰いだ。 「大丈夫?」 「あ、颯太……」 「相手にしなくていいのに。いつもあんなだし」 「でも恥ずかしいものは恥ずかしいよ……」 颯太も僕の隣に並んで食器を水につける。 「おーい、颯太。ついでにビール持ってきて」 「はいはい」 するとダイニングから声が飛んでくる。 ……お酒、か。 お酒と聞くたび、嫌な思い出が蘇る。 「あ、亜樹ちゃんも飲むー?」 「いいです……!」 「おっさんいい加減にしろ」 「なぁんだよ〜。颯太、まんざらでもなかったろ?」 颯太は久志さんの言葉に溜め息で返事をして、冷蔵庫を開ける。缶ビールだけでなくチーズも出しているあたり、優しい。

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