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逆巻く欲望7
僕はもうお酒なんて飲みたくない。消したい記憶堂々の一位だ、あれは。
思い出すだけで恥ずかしすぎて死にそうになる。
何でも素直にポンポン言っちゃって……だらしなく笑って……恥さらしだ。
でも今、久志さんはまんざらでもなかったと言わなかっただろうか。颯太は、お酒を飲んだ僕を見て、嬉しかったのだろうか。
チーズを切って皿に盛り付ける颯太の袖をくいっと引いた。
「颯太……酔ってる僕の方が、好き……?」
「どうしたの、いきなり」
「だってその方が素直で、恥ずかしがらないし」
「自分に嫉妬してるの?」
「……だって」
一度不安に囚われると抜け出すのは難しい。だってすぐに酔った自分のいいところばかり見つけてしまうし……。
すると颯太は仕方ないなって感じで笑って、僕の頭を撫でた。
「確かに酔った亜樹を可愛いと思った」
その言葉で一気に沈んだ僕を持ち上げるよう、颯太は頬を優しく挟む。
「だけど一番は普通の亜樹。恥ずかしがり屋で遠慮しいで、たまに好きって言ってくれる亜樹が、一番好き」
「……うん、ありがとう」
ああ、僕は本当に安直だ。
颯太が優しく笑ってくれるだけで、すぐに安心するんだから。大丈夫だって思えてくるんだから。
颯太の手に頬をすり寄せる。
改めて大好きだなって、かっこいいなって胸がきゅんとした。
「亜樹」
「なに?……んっ」
呼ばれて視線を上げた途端、重なる唇。
触れたのは一瞬で颯太はすぐに離れていってしまう。目を細めた愛しい人と甘い視線が絡んで。あまりにも嬉しかったからえへへって笑みがこぼれる。
「あーもう、かわ……」
「ぐっ……眩しい!」
「……っ!」
急いで振り返ると久志さんが目を押さえて悶絶している。
もしかして今の全部見られていた? 僕の不安の声も颯太とのキスも、全部、全部。
先ほどよりも顔を赤くさせて俯く。
「来たなら自分で持っていって」
颯太は不機嫌そうな声と共に久志さんにチーズとビールを押しつける。代わりに久志さんの皿を受け取って水につける。
へいへいと返事して久志さんは出て行った。
「あーき」
「そうたぁ……」
恥ずかしすぎて目が潤む。思わず颯太の手を握る。
颯太はきっと優しい言葉をかけてくれると無意識に思っていたのだろう。だから妖艶な笑みを見て、びくっと心臓が跳ねた。
「続きは久志さんがいなくなってからね」
「そっ、あっ……」
なんだか機嫌のいい颯太は言うだけ言って皿洗いを始める。
「颯太のいじわる……」
「なんか言った?」
「なんにも!」
「ごめんってば」
顔はタコのように赤いだろうけど、なんとか言い返す。それにもただ楽しそうな颯太。
僕は颯太を見ないようにしながら、並んで皿洗いを始めたのだった。
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