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逆巻く欲望9
「おーい! 渡来、間宮、行くぞ!」
「あ、うん!」
「わかった!」
ちょうどその時、全員準備を終えたようで呼ばれてしまう。僕にとっては好都合だ。
そしてメイドとウェイター、裏方の対面だ。
教室の影から計十二人が出て行く。
深緑の前掛けをつけた裏方の人たちが僕たちの方を見て、一斉に大声をあげた。
その声はうわーともうおーともおおーともつかぬもの。
その叫びが終わると、気持ちわる!とかすね毛!!とかまじネタじゃん!といった声が上がり、笑い声が教室に広がっていく。
「渡来」
「あ、清水くん」
その様子を圧倒されつつ見ていると清水くんが寄ってきた。颯太の作った前掛けが、似合っている。
「似合ってるよ」
「そう言われると、ちょっと複雑……」
「はははっ、喜んどけば?」
「やだよっ」
「亜樹、可愛いのにね」
僕と清水くんが話していると颯太が僕の腕を軽く掴む。その顔はからかうような笑みで、僕は唇を尖らせる。
「おおーー! 渡来! 似合うな!」
すると僕を見つけた松村くんが僕たちの方へやってくる。言い出しっぺだからと松村くんもメイド服を着ている。
筋肉質な脚や腕に黒い肌の人がメイドという姿は、申し訳ないけれど面白い。
そんなちぐはぐメイドさんは清水くんの隣に並んだ。
「茂、メイド似合わなすぎ」
「なんだぁ、蓮。羨ましいか!」
「まさか」
「こんなん似合うの渡来くらいだって。蓮、惚れちゃうんじゃね?」
「やめろって」
松村くんがニヤニヤ笑って肘で清水くんを突く。清水くんはなぜか頬を染めて、松村くんを押し返す。
「ごめんな、渡来。この気持ち悪いメイドが」
「えっと、平気だよ」
「それに惚れたとしても、亜樹は俺のものだからね」
「おおっ、間宮! 男らしい!」
「なっ……颯太っ」
颯太の思い切った発言に目が飛び出しそうになる。松村くんがいるのに、どうしてそんなことを言うのだろう。
怖くなって颯太の背に半分隠れる。
「大丈夫だよ、亜樹。クラスのみんなが気づいてるし」
「えっ」
「そもそもあの騒動で気づかないほうがおかしいって〜」
「てか普段の様子からしてそうだしな」
颯太、松村くん、清水くんに次々言われてびっくりする。
確かにあの騒動の時はどう思われるかなんて気にしなかったけど、中には特別仲のいい友達と思っている人がいてもおかしくないと、思っていた。特に松村くんみたいな鈍感そうな人は。
でも、そうなんだ。ばればれ……なんだ。
「僕だけ……馬鹿みたいだ」
「そんな亜樹も可愛いよ」
「颯太も馬鹿!」
颯太の背中に顔を埋める。颯太に言い返すと、清水くんや松村くんが笑い出した。
恥ずかしくてたまらなかった。
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