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熱と騒然と寂寥と1

カラッと晴れた秋の青空。 漂ってくる食べ物の匂い。 がやがやと騒がしい校舎。 老若男女入り混じる来客。 ついに文化祭が始まった。校舎内も外も大賑わいだ。普段は校舎にいるはずのない女子たちも多く来ている。 僕のクラスのメイドカフェもなかなかに盛況だった。 やはり男子がやるメイドというものに興味がある人は少なくないみたいだ。男女どちらも来てくれて、ウェイターもいることがわかると女子の数が増えた気がする。 「すいませーん!」 「はい!」 手をあげる男性二人連れに近づく。 歩くとツインテールのウィッグが揺れて、頭が軽く引っ張られる。長い髪の毛というものは男からしたら重い。 だけどそんなこと気にしてられないくらいには注文を受けることに追われている。 「コーヒー二つとチョコレートケーキとショートケーキ一つずつ」 「かしこまりました」 手元のメモにせっせと書き込んでいく。 お店で使っているような機械はもちろんあるはずがない。 「ねぇねぇ、君って本当に男?」 「えっ、男ですけど……」 「なんかメイドさんゴツいのばかりだし、それを覚悟して来たわけだけど、君だけ可愛らしいよね」 大学生であろう二人は人当たりのいい笑みを浮かべて僕に話しかける。 こうやって声をかけられることも多かった。 嫌だけど、お客さんだと思って笑う。 「……そうですか?」 「うん。背小さくて、体も細くて」 「このあと校舎案内してくれない?」 「えっとそれは……」 だけどやっぱり僕は会話が下手くそで、うまい切り上げ方がわからない。こういう時は颯太がいつも助けてくれる。本人もそう言ってたし。 でも、今日は違うんだ。 「えーいいでしょ?」 「ちょっとだけ、ね?」 「あの……」 伸びてくる腕をそっとかわす。 付いて行ったらどうなるかぐらい僕にだってわかる。何回か経験しているのだから。 ただ可愛らしいだけじゃないんだ、って心の中では強がるけど、困った状況を抜け出せるわけではない。 どうすればいいのだろう。 「渡来! 早くー!」 「あ、うん! 失礼します!」 「ちょっ……」 「あーあ……」 その時、清水くんがキッチン代わりの場所から呼んでくれる。慌ててそこまで駆けていく。 お客さんからはあまり見えない教室の隅。少し安心する。 「大丈夫か? 声かけられること多いな」 「うん……。ありがとう、清水くん」 「注文聞いたらすぐ帰ってくればいいよ」 「わかった」 「間宮は何やって……」 清水くんも散々颯太が僕を助けるところは見てきたからか、条件反射のように颯太を探す。 颯太はすぐに見つかって。すぐに固まって。 だって颯太は女の子に囲まれているから。 今相手にしているのは四人連れ。笑顔で言葉を交わしていて、そこが済むと待ってましたと他の女子が呼ぶ。そこでもまた笑顔。 さっきからそれの繰り返しだ。 颯太目当てのお客さんも徐々に増えているみたい。 「渡来、かーお」 「へっ?」 「不満げな顔になってる」 「あ、ごめん」 「まあ、仕方ないよな」 お客さんが増えるのはいいことだ。それに颯太は女の子だけを相手にしているわけでもないし。 でも、でもやっぱり、嫉妬してしまう。 僕は最近そればかりだ。 颯太が僕以外の人と関わる様をよく見るようになって、喜ぶべきなのにすぐに嫉妬する。 心が狭くて、嫌なやつ。あんなかっこいい颯太が僕を見てくれるだけで満足すべきだ。

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