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熱と騒然と寂寥と2

僕は清水くんに注文を伝えたあとまたテーブル側に戻った。 戻ってすぐまた呼ばれる。今度は制服姿の女子。 「わー可愛い!」 僕が席に行って一番に言われたのはそれ。 「本当に男の子なんですか?」 「はい」 「うわぁ、見えな〜い」 「私たちより可愛かったりして」 「メイド服ってとこも素敵〜」 「あの! 写真撮ってもいいですか?」 「写真、ですか?」 「お願いします!」 三人連れの女子たちが次々喋りだす。 可愛くお化粧をして、香水のような甘い香りがして、僕に迫る。女子特有のこの勢いに慣れてなさすぎてたじろいでしまう。 そして三人同時に手を合わせられれば、 「わかり、ました……」 頷くしかない。 「やったー! ありがとうございます」 「寄ってください」 言われるがままテーブルに近づき、少ししゃがんで、女子の手がスマホを構える。フレーム内に四人が入るのを確認してから、パシャッと音が鳴る。 女子たちは顔を寄せ合って写真を確認すると、僕にお礼を言った。それからやっと注文を聞く。 その注文を伝えにキッチンへ戻っていく。 するとちょうど颯太の後ろを通ることになってしまった。颯太は大学生であろう女性二人組を相手にしていた。 後ろを通る時は当然声が聞こえるわけで。 本当に高校生〜? とか大人っぽい、かっこいいなんて女性が言って、颯太はそれにいちいち真面目に答える。 わざわざ愛想よくする必要なんてないのに。 ポッと飛び出た感情に嫌な気持ちになる。だめだ、だめだと考えつつ、そっと顔を盗み見る。 と、目が合ってしまった。 お互いの顔をちゃんと見るのは、文化祭が始まってから、初めて。 「あ、」 "き"まで聞かず、咄嗟に顔をそらす。 そのすぐあとにまた後悔。 本当に嫌なやつだ。みっともない。 颯太が手を伸ばす気配がしたけれど構わず歩き続けた。 そのすぐ後にどうしたの? って女性の声とそれへの返答が聞こえて、やっぱり嫌な気持ちが湧く。 嫉妬なんて。颯太はお客さんの相手をただしているだけなのに。 「渡来、これ運んで!」 「あっ、うん!」 呼ばれて我にかえる。 だめだ。今は仕事に集中しなければ。私情でクラスに迷惑をかけてはならないんだ。

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