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熱と騒然と寂寥と4
「疲れたなぁ……、明日もこれか」
「うん。たくさん働いた」
「渡来は動く量が多いもんな」
一日目が終了して今は軽い片付けの最中だ。ゴミや教室内の汚れ等を綺麗にしていく。
もうメイド服は脱いでいる。やはりスカートよりズボンが落ち着く。
清水くんとキッチンのところでゴミを拾っていった。それからついでに散らばった材料や食器等も整理していく。
「こんな感じで平気かな……」
「まあどうせ明日もやるしな」
今日はもう各自で解散だ。だから大雑把な人はとっくに掃除をやめて帰っている。
もう僕たちも帰っていい頃合だろう。
ちなみに颯太とは結局、会話をしていない。
颯太は松村くんに感謝されていたり、ゴミ出しに行ったりと、手が空いていなかったのだ。
でもその方がよかったのかもしれない。
「なぁ、渡来……」
「亜樹」
不安そうな顔で何かを言いかけた清水くんと、背後からの颯太の声。
自然と振り向くと久々な気のする颯太が視界に入った。
「片付け終わった? 一緒に帰ろうよ」
いつもよりどこかぎこちない。
それがすごく淋しかった。だって考えていることが同じってことになってしまうから。
ならなんでって、問いかけたくなるから。
「ごめんね、今日スーパー寄るから」
「亜樹っ……」
咄嗟の言い訳と見苦しい微笑み。
颯太の顔を見ないようにしながらリュックを掴んで走り去る。
教室を出て、廊下を渡って、玄関まで行って。
颯太は追いかけてこなかった。
「なんで……」
息を切らし、そう呟いた自分を、殴りたくなる。
馬鹿だ。本当に、馬鹿。
矛盾した感情も行動も馬鹿みたいだ。それが哀しくて、淋しくて、悔しい。
せっかく一緒の未来を掴んだのに、みっともなく嫉妬して、自分から破壊しようとしている。
日本の南へ逃げた頃より遥かにくだらない悩みなのに、あの頃より全然意気地がない。
颯太の考えていることが自然とわかるような気がして、二人ならどこまでも行けるって思えたはずなのに、今は、もう。
非現実から一気に現実に戻って、感覚も還ってしまったんだろうか。
わからない。そんなのわからない。だけど辛い。
隣に体温がないことは、一人ぼっちの帰り道は、こんなに淋しいものだっけ。
見上げた空は夕焼け色。
今だけは、とても淋しい色だ。
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