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見守るというカタチ4

○ ● ○ 明らかな嘘をついて教室を走り出て行った渡来。 間宮は負い目があるのか、追いかけない。悔しそうにドアを眺めるだけ。どんな理由があろうと渡来を追いかけた方がいいと思うけど。 だがわざわざ指摘するほど俺は優しくない。ここに残っているのが渡来なら別だけど、ここにいるのは一応恋敵だ。 間宮は嫌いではない。いいやつだし一緒にいて楽しい。でも素直に協力するのは、嫌だ。 そもそも間宮は俺の想いに気づいているから、わざわざ言うのも微妙かもしれない。 ただ沈黙は気まずい。 教室はもう俺と間宮しか残っていなかった。しんと静まり返った教室に、男が二人。 「間宮……」 耐えきれなくなってその名を呼ぶ。けれど続きがあるわけでもなく、結局続かない。 でも間宮は誰かに話したかったのか、静かに呟いた。 「頭を冷やさなきゃ……」 「間宮が?」 「そう。醜い嫉妬なんかしてさ、そんな俺が亜樹を追っちゃいけない」 「……え」 待て。待てよ。 こいつら、揃いも揃って阿呆なのか。前も思ったけど、お互いを想いすぎて、お互いのことを考えられなくなっているんじゃないだろうか。 「清水くん」 「な、なんだ!」 「今日は亜樹のこと、色々気遣ってくれたみたいでありがとう」 「いや、まあ……というかごめん」 「ううん。確かに俺がそこにいたらとは思うけど、無理なことだから」 そう言って間宮は淋しそうに笑いやがる。 「できれば明日もお願い。こんなこと頼めるの清水くんだけだから。じゃあ、また明日」 「おう。またな」 純粋に悔しい。何がって全部。 間宮の信頼も渡来や間宮の想いも自分自身も。 できることなら空に向かって思い切りくそやろうとか叫んでみたい。この溜まりに溜まった鬱憤を晴らしてしまいたい。 でもそれは無理だから、一つ決意を固める。 今回俺は協力しない。 俺が何かしなくたってこいつらは、主に間宮が、多分なんとかするだろう。だから絶対に協力しない。こじれていっても、何もしない。あわよくば渡来を奪う。 「よし、決めた! そうする!」 俺は少し薄暗くなり始めた教室で叫び、勇んで帰り道を辿った。

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