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熱と騒然と寂寥と6
僕はとりあえずここにいたくなくて、キッチンの方へ向かった。何か外に出る仕事を貰えばいい。
「うわ、コップもうなくなりそうだぞ」
「まじか」
すると運よくそんな声が聞こえる。裏方の人とメイドの松村くんが話していた。
確か紙コップは使うクラスが多いからと一気に購入したものが、諸々の用具置き場に束になって置いてあったはずだ。
「松村くん、僕行ってくる」
「ん? 渡来? でもお前、メイド……」
松村くんは僕を見て少し驚いたあと、ハッと何かを思いついたような顔をする。
「おう、じゃあ頼む! 宣伝にもなるし! でも一人じゃちょっと危ないかもな〜。お! そうだ! 蓮ー!!」
「何?」
松村くんが一人で色々言ったあと、清水くんを呼ぶ。ちょうど手の空いた清水くんが僕と松村くんのところへ寄ってくる。
「渡来とコップ取り行ってきて」
「は? 茂、まさか」
「ふふーん!」
「勝手にやめろって。そういうのいいから」
「え〜」
すぐ出ていけると思ったら何やら清水くんと松村くんは言い合いを始めてしまう。とりあえず僕はこの場を離れたい。
清水くんの腕を掴んだ。
「清水くん、早く行こ。みんな困っちゃうから」
「ほらほら、渡来もそう言ってるし」
「いや、渡来……いいのか?」
「いいって何が?」
「……そっか。うん、何でもない。行こう」
複雑そうな笑みを見せるが、清水くんは頷いてくれる。
この格好では確かに色々絡まれるかもしれないから、清水くんがいてくれた方がいい。
二人で並んで教室を出ようとした時だ。
「亜樹」
颯太に腕を掴まれる。
女の子に触れられていた手が、僕に触れた。
顔は見ることができない。でも颯太がどんな顔をしているか、見なくてもわかる。
「何、颯太……」
「少しだけ話しよう」
「だめだよ。クラスに迷惑がかかる」
「でも亜樹……」
「ごめん。今は颯太といたくない」
「亜樹!」
颯太の腕を振り払って走り出す。ヒールだから少し走りづらい。でも颯太が追いかけてくるはずもないから、遅くても平気だ。
メイドさんが走ってる、なんて声を聞きながら廊下を駆けていく。
そのまま用具置き場に行ってしまった。
会長に無理やり引っ張られてきた階段下とは別の場所。そこに紙コップやお皿、その他のものもそれぞれ置いてあった。
「渡来、大丈夫か?」
「あ、清水くん……」
振り向くと清水くんが息を切らしてそこに立っていた。
忘れていた。清水くんと行くはずだったのに。
「まあ仕方ないよな、逃げちゃうのも」
清水くんは勤めて何気ない声を出しながら、僕を追い抜かす。そして紙コップの用意を始めた。
「清水くん、僕もやる……わっ!」
一人でやらせるわけにはと慌てて近づくと、慣れないヒールで足がもつれてしまう。
ドサッという音と共に倒れこんだのはもちろん。
「ご、ごめんね。清水くん」
顔だけをまず清水くんの胸から上げる。下を見ると大量の発泡スチロールのようだった。
固いものでなくてよかった。
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