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熱と騒然と寂寥と7
「清水くん、大丈夫?」
「おう、平気」
「あっ! というかまず立ち上がらなくちゃだよね」
心配で清水くんの顔を覗き込んで、その近さに頬が熱くなった。
まず立ち上がらなくてはなのに、僕は何しているのだろう。
そう思って足を踏ん張ろうとするのだけど、ダンボールの隙間にはまり込んだりしていて、どうにも立ちづらい。
「渡来……」
「ん? なに……ひっ」
ハッとして口を塞ぐ。
「ご、ごめん、なんでもない」
清水くんは手伝おうとしてくれたのか、僕の胸に手を当てた。その時たまたまその指が、乳首を挟んだのだ。
服の感触と指と。思わず声を上げてしまった。
僕の馬鹿。
「渡来さ……」
「やっ、ひ、あの清水くん、待って……」
すると今度は清水くんの膝が僕の下半身に当たって……立とうとしているのか、膝が擦れてしまう。
やだ、僕みっともない。何でもないのに声なんかあげて。
清水くんはどんな表情をしているのかと心配になって、顔を上げると。
「清水くん……?」
我を無くしたかのような清水くんが顔を近づけてきていて…………
なぜか僕の心臓はばくばくし始めた。
「……と、大丈夫か?」
「え? あ、うん」
しかし顔は途中で止まって、いつもの清水くんに戻る。僕の胸を軽く押して、立つのを手伝ってくれた。
今のは、なんだったのだろう。
いや、そう思うのはおかしいか。普通に立たせようとしてくれただけだ。先ほどの表情はただの勘違いだろう。
「あの清水くん……大丈夫?」
「発泡スチロールだから全然痛くなかったわ。コップは……と、あった」
清水くんは僕に背を向けて乱れた場を正し、コップの入った袋を二つ手に取る。
「じゃあ教室帰るか」
「……うん」
清水くんが笑顔を向けてくる。
コップを取りに行くという目的は果たしたわけだから、帰らなきゃいけない。それこそクラスに迷惑がかかる。
「帰りたくない?」
苦笑する清水くんに小さく頷く。
「颯太と話したいけど……話したくないの」
このまま話さなかったら喧嘩みたいになってしまうかもしれない。でも颯太と話したら、醜い嫉妬とか悲しさとか、抑えきれない気がする。
恋って、恋人と一緒って、難しいんだ。
「あーもう」
「清水くん?」
すると苛ついたように清水くんが僕の腕を掴んだ。そのまま引っ張られていく。
「贖罪とかじゃないから。今のは渡来が悪いからな」
「え、えっ? 怒ってる……?」
「怒ってない」
そうは言うけど声は厳しい。清水くんの顔は見えず、ただ背だけを見つめて歩いて行った。
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