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熱と騒然と寂寥と8

清水くんが無理やり連れて行ったのは、やはり教室だ。 「ほら、コップ」 「おう、サンキュ。って蓮くんお怒り? ごめんってば〜」 「違う」 清水くんは教室に入ると、松村くんに乱暴にコップを渡す。仲の良い松村くんもそう言うのだから、やっぱり怒っているのだろう。 僕が怒らせたのかな。状況からすると、そうなんだけど……理由はわからない。 清水くんはそのあと教室を見渡し、颯太の姿を見つけると一人で向かっていった。 何か話しかけて驚く颯太の手から注文表を奪い取る。 その様子を僕は教室の隅で突っ立って見ていた。 すると険しい顔のまま清水くんは僕の方へ颯太を引っ張ってきた。 待って、これは僕と颯太を無理やり話させるということ? 会いたくないって、帰りたくないって言ったばかりなのに? 焦っても逃げることはできずそのまま清水くんは僕の元へ来てしまう。 「間宮と渡来。宣伝ついでに校内二人で回ってこい。しばらく帰ってくんな」 「え、清水くん……」 「渡来。口答えしない」 「あ、はい」 ぴしゃりと言われて僕は思わず姿勢を正す。 それから颯太の背を僕に向かって押した。一歩近づいた颯太を見上げる。久々に直視した。 お互い気まずく見つめ合う。 「亜樹、行こうか」 「う、うん……」 手を取られた。その体温や握り方は柔らかい。そのまま教室の外へ連れ出される。 「おい、蓮! なに勝手に……」 「うるさい」 「いった! メイドをはたくなよ!」 そんな会話をBGMに僕と颯太は歩いていく。 やっぱり僕らを見かねて清水くんは気を利かせてくれたんだよね。その方が仕事に集中できるというのもあるのかもしれないけど。 心臓を高鳴らせながら颯太をちらりと見る。 颯太はどこへ向かうのだろう。 妙に掴まれた掌が熱い気がする。 さっきまで嫌がっていたくせに、いざこうなるとどこか嬉しい自分がいた。今だけは独り占めしているって思えるから、かな。 今はウェイターとメイド。 周りから声を上げられながら進み続け、どんどんひと気のない方へ向かわされた。 三階、四階と階段を上り、隣の校舎に移り、文化祭では閉鎖されている区画へ行く。最上階の一番端にある音楽室。 その隣の準備室に颯太は入ると、鍵を閉めた。

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