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熱と騒然と寂寥と9

颯太はそこで僕の腕を離すと、楽器の隙間をぬって、準備室の中心あたりに直接座った。 僕はその様をぼんやり眺める。 颯太はそんな僕を見ると、そっと笑って腕を広げる。僕はくしゃっと顔を歪ませて、その胸に飛び込んだ。 「亜樹……ごめんね。あの時、かわしきれなかったんだ」 「もういいの……」 「でも、ごめん」 強く抱き合うと、ああ、ここだって思えた。 すごく熱が心地よくて、安心できて、意地張った気持ちが消えていく。 「淋しかった……」 「うん」 「僕を守るって言ってたのに」 「そうだね」 「女の子に触らせて」 「うん……嫉妬、してくれたんだね」 「当たり前、だもん」 ぽろって一粒だけ涙がこぼれた。 痛いかもしれないくらいぐりぐり頭を押し付ける。 「俺も嫉妬したよ」 「そうなの……?」 「亜樹だって、男の人に触られたり、女の人と写真撮ったりしてたでしょ?」 「見てたんだ……」 「守れないくせに見てた」 馬鹿だな。 二人とも嫉妬して、だからお互い思い切って行動できなかったんだ。 嫉妬をされると、それだけ想われてるんだって嬉しい。だけど自分がすると途端マイナスに取られがちだ。 そんなことに気づいていたから、清水くんは怒ったのかもしれないな。 颯太の胸から目だけ上げてみる。 ちょうど下を向いていた颯太と視線が絡み合った。 榛色の瞳には熱いものが宿っている。 考えていることはいっしょーー 「んっ」 最後まで考える時間もなく、唇が重なった。 長いツインテールに颯太の指が差し入れられ、深く深くキスをまじわす。 唾液が混ざり合って、垂れていっても、僕らはやめなかった。気の済むまで舌を絡め合って、何度も離れてはくっついて。 「……ふっ、んぅ、はっ……」 やっと唇が離れた時には、もうぽわぽわしていた。

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