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熱と騒然と寂寥と11
颯太は精液を片手に移し、ポケットから取り出したティッシュで全て拭った。それから他の部分も綺麗にしていき、それぞれの性器をしまう。
ここまでのことを僕はぼんやり眺めていた。
「亜樹、スカート下ろしていいんだよ?」
「あっ! うん」
目を見開いて、急いでスカートを下ろす。
それから颯太に手を取られて立ち上がった。
……どうしよう。僕は学校で何を。
頭の中で羞恥がくるくる回って、頬が火照っていく。
「亜樹、大丈夫?」
「だ、だって、学校で……あんな……」
「校内でひゃんひゃん喘いで可愛かったよ」
「〜〜っ、馬鹿!」
「馬鹿に惚れてる亜樹はもっと馬鹿かもね」
「うぅっ」
そんな会話をしながら音楽準備室を出た。
わざわざ僕を煽らなくてもいいのに。颯太は酷い。もう泣きそうだ。
僕の頭を颯太は撫で、それから僕に腕を組ませて歩き始める。
それだけのことで僕の複雑な気持ちは吹っ飛んだ。
「宣伝してこいって言われたし、柊のクラスに寄って行こうか」
「会長の?」
「そう。こっち側じゃない端の教室でやってるから。プラネタリウムだって」
「プラネタリウム? すごいね」
渡り廊下に出るとふわっと風が吹いて、ツインテールをさらっていった。涼やかなそれは熱くなった体を冷ましてくれる。
太陽の光が柔らかく僕らを温める。
他の階と違って壁のない四階はその温度を直接感じられた。
「寒くない? わざわざ四階の渡り廊下通らなくてもよかったね」
「ううん。大丈夫だよ」
腕にきゅっと力を込めて体を近づける。
こうしていれば温かい、なんて言うつもりはないけれど、くっついていたかった。
そのまま僕らは外を通り、教室がある方の校舎に入った。
その瞬間、一気に人の声に包まれる。
別の世界から文化祭に戻ってきたという感じだった。客を呼ぶ声や色々な会話など、いつもとは比べ物にならない音量が学校を取り巻いている。
僕と颯太は人波をぬって歩いていく。ウェイターとメイドというなりだから、多くの人の注目を集めた。
恥ずかしい。このまま端まで行かなきゃいけないんだ。
少し俯いて縮こまる。
「二階でメイドカフェやってます! ぜひ来てくださいー!」
すると突然、颯太が来場者に向かって叫び始めた。そして僕の腕を軽く叩いて催促する。
「えっと、よ、よろしくお願いします!」
そうだ。宣伝とはこういうことを言うのだった。清水くんに頼まれたし、クラスに迷惑をかけているだろうから、少しでもお客さんを呼び込もう。
一回大声を出してしまえば羞恥も薄くなって、何度も颯太と一緒に宣伝をした。
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