260 / 961
熱と騒然と寂寥と12
「あのー、ウェイターさん!」
「はい?」
ゆっくり歩いていって、廊下を半分ほど過ぎたところで、女の子二人が颯太に声をかける。
少し頬を染めて、上目遣いで、いかにも颯太を狙っていますという感じ。
「メイドカフェまで案内してくれませんか? 迷っちゃうかもしれないから……」
女の子たちはもじもじとして恥ずかしがりながら、颯太に哀願するように見上げる。自分たちの可愛さを全面に押し出していた。
そんなの嘘だ。パンフレットを見ればすぐ行けるに決まっている。迷うなんてありえないのに。
でもそれを口に出せるはずもなく、颯太の動向を見守った。
颯太は女の子の手をさりげなくかわした。
「ごめんね。俺のメイドさんが嫉妬しちゃうから」
アイドルのようにキラキラ光る笑顔を見せ、僕の姿を女の子に見えるようにする。
それから会釈をして再び歩き始めた。
「そ、颯太っ……」
「大丈夫だよ」
僕が焦ってその服を揺らしても颯太は余裕の笑顔を崩さない。
でもここは男子校なのだからメイドを男がやっているということは容易にわかってしまう。たとえ僕が女顔だとしても。
それなのに俺のメイドさんだなんて、俺の……
プシュッて脳から湯気が噴き出した気がした。
「ほら、亜樹」
「え?」
「すごーい! そんな設定あるんだ!」
「凝ってるね! 行ってみる?」
颯太に促されて背後に耳をすますと、さっきの女の子たちの興奮した声が聞こえた。
その言葉に少し拍子抜けしてしまう。そんなあっさり勘違いしてしまうなんて、お祭りゆえの空気というものだろうか。
でもそれをわかっていたから颯太はメイドさんという言葉を使ったのだろう。
「ほらほら、宣伝するよ」
「う、うん!」
そうしてまた僕らは宣伝を再開して、廊下を歩いていった。
とうとう黒い板にプラネタリウムという白い文字が書かれた看板が見え始める。
教室の前には二つ椅子が置いてあって、一人がそこに座っていた。
タイミングよくその人は会長だった。
近づいていくと、会長はあからさまに顔をしかめる。
「なぜ来た」
「柊に会いにきた」
「ふざけた格好で?」
颯太がふざけて言うと会長の機嫌はますます悪くなる。そして鋭い視線が僕を見た。
そういえば今の僕はまるっきり女の子の見た目だけど、わかるのかな。
「そっちは亜樹か」
「えっ、わかるんですか?」
「好きだった者のことくらいどんな格好でもわかる」
「……ぁ」
直球すぎる言葉に声が出ない。
別に颯太は会長の想いに気づいていたみたいだし、今は会長にも恋人がいると伝えたから問題はないのだけど……
もしかして会長って、天然なのかな。もしくは真面目すぎる?
ともだちにシェアしよう!