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熱と騒然と寂寥と13

「亜樹、可愛いでしょ?」 颯太は僕を背に隠すと、会長に向かってにっこり笑う。それを見て会長は嘲笑を浮かべた。 「醜いな。嫉妬か?」 「柊は亜樹をいじめた危険人物だから」 二人が仲直りできたのは嬉しいけれど、お互いすぐには素直になれないのだろうな。 パチパチ火花が散り始めたその時、ちょうど教室からお客さんと、おそらく会長のクラスメイトが一緒に出てきた。 どうやら一人案内人がついた状態で見るみたいだ。 「ついて来い」 会長はぶっきらぼうに言って、教室に先に入る。 僕、颯太の順番で、黒幕をめくって中に入った。 中はサーカステントのように黒幕がはられていて、暗かった。うっすら相手の動きが見える程度。 会長はその中心に行ってその場にしゃがんだ。僕と颯太も倣う。 カチッて音が鳴って、上に星が映し出された。 「わぁ……綺麗!」 「……うん、綺麗だ」 本物のプラネタリウムほどではないけれど、高校生がやったと考えると、十分レベルの高い出来だった。 何よりアイデアがすごい。 「会長、よくこんなこと思いつきましたね」 「思いついたのは僕ではない。だがいい案であったとは思う」 これなら当日の人手は少なくて済むし、お客さんは楽しめるし、本当にいいアイデアだ。 「そういえば亜樹、会長と呼ぶのはそろそろやめた方がいい」 「あ……そうですね」 毎年、生徒会は文化祭をもって解散だ。受験があるから仕事自体はもっと前に引き継いでいるらしいけど、形では文化祭で終わり。 会長はもう会長でなくなってしまう。なら、別の呼び名を考えなければならない。 「……じゃあ、柊先輩?」 そう言うと颯太と会長……いや柊先輩の顔が物凄い速さで僕を振り返った。 一瞬光った瞳が怖い。 「なぜ名前なんだ」 「なんで名前なの」 そして見事に声が揃う。くすって笑うと今度は颯太と柊先輩が互いを睨んだ。 「柊先輩ってまだ九条なんですよね?」 「……ああ。一応養子のままだからな」 「でも久我でもあるから、苗字は違うな〜って感じたというか……。そもそも柊先輩って苗字呼びが好きじゃなさそうだから。初対面の人も名前で呼びますもんね」 柊先輩と関わりを持つようになってから最初に驚いたことだ。渡来と呼ばれたことは一回もない。 疑問も何もなく言った僕だけど柊先輩は溜め息をこぼした。 「クラスの者たちは普通に九条と呼んでいるから問題はないのだが……」 「あっ」 「それに隣のやつがまた妬くぞ」 「……いいよ、別に。想いは俺に向いてるから」 隣を見ると颯太はじっと僕のことを見ているようだ。表情まではうかがえない。

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