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熱と騒然と寂寥と15

そのまま四階から三階に移って、また宣伝しながら歩いた。途中手頃なカフェを見つけるとそこに入って少し休憩したりもした。 ちょこちょこ他のクラスを楽しみながら、メイドとウェイターは自分の教室に戻った。 「うわ、すごいな」 「宣伝の効果……かな」 メイドカフェには長蛇とまでは言えないけれど、お客さんの列ができていた。カフェは他にもあるのにわざわざ来てくれたということだ。 これでは逆にクラスのみんなの負担を増やしたかもしれないって思わず苦笑い。 すいませんって声をかけながらお客さんの間を抜けていく。 「あー! やっと帰ってきた!」 僕らをまず見つけたのは松村くん。怒られるかと思いきや、その時間すら惜しいのか、早く戻れっとだけ言って、注文を聞きに走っていってしまう。 教室はてんやわんやの状態だ。本当に忙しそう。 「渡来、間宮」 「清水くん」 急いで手伝わなきゃって思ったら清水くんがキッチンから顔を出す。 「しばらくって言ったけど遅すぎ」 「ごめんね……」 「客は増えたからいいんだけどさ」 「うん。気遣いありがとうね」 「俺からもありがとう。迷惑かけたね」 「気遣いとかしてないから。早く仕事に戻れって」 清水くんはなぜか今日は気遣ってくれたことに照れている。いつもなら進んで協力して恥じることだってないのに。 首を傾げていると、颯太の視線を感じた。隣を見れば視線が重なる。 ふっと笑い、揃って「はーい」と返事をした。 そして恐ろしいほどの忙しさの中に入った。 注文を呼ぶ声がそこかしこから聞こえて、いくつかのテーブルに行ってから、注文を伝えに行ったり。料理を運ぶそばからすぐに呼ばれたり。 そんな忙しさの中でもやはり颯太は女の子に絡まれていた。でも今はそれを見ても心は揺れない。 冷静に見るとちゃんと颯太は断っている。ウェイターとして最低限、女の子に付き合っているだけだった。 「ねね、メイドさん」 「はい?」 注文を伝えに戻る最中にスカートを引かれる。その手をやんわり外しながら振り向く。 「連絡先とか交換しない?」 「ごめんなさい。忙しいんです」 ニコッと笑ってそのテーブルを離れる。 僕だってちょっとは成長したんだ。颯太の努力に応えなきゃ。 少し誇らしく思いながらキッチンに辿り着く。 ちょうど隣には颯太がいた。颯太も注文を伝えにきたようだ。 目が合うと颯太は微笑む。それからそっと掌を僕に向けた。 すぐにわかって、その手とハイタッチをする。 それから僕らはそれぞれの仕事に戻った。 こうして二日間の文化祭は終わりに向かっていったのだった。

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