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ご注文は1

「かんぱーい!!」 カラオケのパーティールームがカンカンカンッというコップのぶつかる音で埋まる。 僕も周りに合わせて乾杯して、麦茶を飲む。 カラオケに来るのはもちろん初めてで勝手がわからない。だから颯太の隣にくっついて、何が起きてもいいようにしておく。 二日間の売り上げはお陰様で結構多い。 打ち上げの場所はよりどりみどりだったが、クラス全員が入れるということでカラオケになった。 「うぉお! 渡来、間宮ぁ!」 「うわっ……」 「ちょ、松村くん!」 「おい、茂!」 松村くんが僕の右隣の清水くんを乗り越え、僕と颯太に抱きついてくる。颯太の腰と僕の腰が密着する。 「オレたちの成功はお前たちのお陰だぁ!」 わっと叫び出す松村くん。 いつもより興奮しているように見える。文化祭は確かに楽しかったから、その余韻なのかな。 颯太と顔を見合わせる。颯太は仕方ないねって感じで微笑んでいた。 「おーい、誰だよ、茂のコーラにアルコール混ぜたの!」 すると松村くんと仲のいいクラスメイトが声をあげる。それを聞いて部屋が笑いに包まれる。 その間も松村くんは何か話している。 確かにこの興奮はアルコールを摂取した時みたいだ。大きな声を出して、周りが見えなくなって。いつかの僕みたいな。 まさか本当にアルコール? と一瞬疑うけど、ここにいるのは颯太以外十六歳か十七歳だ。流石にアルコールはないだろう。 でも、万が一ってことがあったら……って心配性が顔を出す。 腰の松村くんの上から手を伸ばし、自分の麦茶を手に取る。 「亜樹、大丈夫だよ」 「あ、颯太……」 麦茶をじっと眺めていると颯太が苦笑して肩をさすった。 そうだよね。アルコールが入っているはずない。 僕も僕で気分がおかしいのかもしれない。変なことを考えてしまった。 「あーもう! 茂、どけ!!」 安心して麦茶を置いた。そしてまた背もたれに体を預けた時、とうとう清水くんが怒った。 膝の上に乗っている松村くんを僕らから引き剥がす。そして反対側に投げるくらいの勢いで、自分の上からどかす。 その行動にまた笑いが起こる。 「でもみんなだってそう思うだろ!? ほれほれ、お礼でもしとこうぜぇ!」 ソファに倒れこまされた松村くんはすぐ体を起こして、両手を広げる。 「まあ、確かにそうかもなぁ……二人がいたから男女ともにウケが良かったし」 それに清水くんが賛同すると、同意の声がさざ波のように広がっていく。 そして、 「二人ともありがとう!」 クラス全員が声を揃えてそう言った。

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