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ご注文は9
「おはよ、亜樹」
「お……はよ、う……」
目を覚ますと目の前には大好きな人がいる。ぼんやりした視界一杯に颯太が広がって、自然と顔が綻んだ。
すると颯太は優しく微笑んでキスをする。
一回だけで離れていってしまう唇が淋しい。そっと唇を割って、舌をほんの少し覗かせる。
「寝ぼけてるの?」
颯太は愛しそうに僕を見て、深く口づけてくれる。
眠たくてゆっくり瞬きをしながら、キスをしてもらって、至福のひと時だ。
そうしてしばらくキスをしてもらっているうちに、だんだん意識が覚醒してくる。
「颯太……先に寝ちゃって、ごめんね」
「いいよ。昨日は疲れてたんだもんね」
イッた後そのまま寝てしまうなんて、最初の頃だけだった。それがまたやらかしてしまって申し訳ない。
体拭いたり、中からかきだしたり、大変だろうに。力が入っていない体ならなおさら。
……あれ、そういえば今日は服を着ている。
いつもは下着だけのことが多いけど、シャツもなぜか着せられている。
体を起こす。
腕を持ち上げてみるとだぼだぼだった。どうやら颯太の服らしい。
「あー服? 寒いと大変だからね」
「でも颯太は……?」
布団から覗いた颯太の体は何も身につけていない。きっと下着だけだ。
「俺は平気。ね、亜樹、ちょっと立ってみてよ」
「立つ?」
颯太に言われた通りベッドから下りて立ってみる。裾が垂れ下がる。
ただのシャツのはずなのに、僕が着るとワンピース状態だ。脚がシャツの裾からむき出しで伸びている。
ためしに腕を持ち上げて、ぶかぶかの袖を鼻のところへ持っていく。
すんっと嗅いでみると心地いい匂いが鼻腔を埋めた。
「颯太の服だ……」
「亜樹……」
「颯太?」
颯太の服なんて初めて着た。よく泊まったりするけど、普段は自分の服を持っていくから。
大きくて、颯太の匂いがして、包んでくれて。
いいなぁ、颯太の服。
そう思って微笑んでいると、なぜかベッドの颯太が唸る。
「可愛すぎるよ、亜樹……。ねぇ、なんていうか知ってる、そういうの?」
「颯太の服?」
「彼シャツって言うの」
「彼シャツ……」
彼シャツ……。言葉通りなら、彼氏のシャツを着るということだろうか。単純だ。
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